世界征服 2
高見沢治美は、おんぼろアパート「東風荘」の前で、ハロルド洸一の出撃を見送ると、夜勤に備えてもう少し眠っておきたいというハロルド奈津とも別れて町に戻ることにした。
舞台の稽古は、今日は、見送ることにした。こんな騒ぎになったのなら、ヒーローズアカデミーでは、稽古ところの騒ぎではなくなっているはずだ。
高見沢治美は、町に戻って来た。
高見沢治美が、戻って来た町のアーケードの通りは、ガランとしていて、人の通りが全くなかった。
ほんの一時間ほど前に、高見沢治美は、このアーケードの通りのコンビニでのど飴を買い、コンビニの中では、女性週刊誌を引き裂いているカミーユの姿を目撃した。
カミーユは、自分が引き裂いた女性週刊誌の代金を払い。さらに、同じ女性週刊誌を買い。女性週刊誌を手に持ち、コンビニから飛び出していった。
高見沢治美は、カミーユの行動をそばで目撃したのだが、カミーユは、高見沢治美の存在に気づかなかった。
高見沢治美は、カミーユが引き裂いていたのと同じ女性週刊誌を買い、すぐにカミーユのあとを追った。
高見沢治美は、カミーユがコンビニの近くのカミーユと「仲間」のアジトに向かったと予想が付いた。
高見沢治美が、カミーユと「仲間」のアジトのマンションにやってくると、マンションからは、カミーユや「仲間」のジーン博士らがマンションから飛び出して来た。
カミーユは、コンビニのアーケードの通りに戻ると、声高に呪文を唱え、「ゾンビ」たちをこの世に召集した。
「ゾンビ」たちが現れ、混乱が起こり、野次馬がアーケードの通りに溢れた。
そこまで見届けると、高見沢治美は、コーヒーパーラー「ライフ」に向かった。
それから、高見沢治美は、アーケードの通りに戻って来るまで、それほど時間は経っていないはずである。
しかし、カミーユや「ゾンビ」たちの他、逃げ惑う住人や、避難する住人、野次馬たちでごった返しているはずのアーケードの通りであるはずなのが、アーケードの通りには、人はいなかった。
しかし、高見沢治美は別に驚くこともなかった。
カミーユの「ゾンビ」騒動は、アーケードの通りから場所を変えて、「スノードーム」という仮想空間の中で、進行している。高見沢治美は、そう確信していた。
さらに、高見沢治美は、この問題の「スノードーム」が置かれている場所についても、察しが付いていた。
高見沢治美は、最近店を閉じた八百屋に向かった。
普段は閉められている八百屋のシャッターであるが、このシャッターは開けられ、撤去された商売道具のためガランとしたスペースが生まれていた。こスペースの中央には、「スノードーム」を収めるための自動販売機ほどの幅で、人の背くらいの高さのみのショーケースが据えられていた。
そして、「スノードーム」を収めたこのショーケースの隣には「『スノードーム』の一般入口はとなりの建物です」と記された立て看が立っていた。
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「スノードーム」の中は、人でごった返していた。
人々は、もうすぐ始まるドレミヒーローこと、ハロルド洸一とカミーユが呼び出した「ゾンビ」たちとの闘いが始まるのを今か、今かという気持ちで待っていた。
しかし、高見沢治美は、この闘いには意味がないように思われた。
「カミーユが呼び出した『ゾンビ』は、ひどく弱々しいし、この闘いで悪が滅びるなんてことは、絶対にあり得ない」
高見沢治美は、そう思った。
しかし、高見沢治美のそのような思いに答えるように、誰かが高見沢治美の背後から声をかけてきた。
「高見沢治美さん、このヒーローとゾンビの闘いは無意味なものとお考えのようですが、本当にそうでしょうか。この闘いは、決して無意味なものではありません。この闘いによって真相が明らかになります。それがどのような真相であるのか、私はそれが明らかになるのがたのしみでなりません」
高見沢治美は、驚いて後ろを振り返ってみた。
高見沢治美の後ろに居たのは、滝ふたばの父であり、滝ケートの祖父であるシンメトリックであった。