世界征服
カミーユは、ベータミンシリーズの研究の成果として、この世界と異世界の狭間を浮遊する死者の魂に肉体を与え、この世界にふたたび出現させてみせた。
そして、肉体を得てこの世界に姿を現した死者の魂を、町の人たちは「ゾンビ」と呼んだ。
「ゾンビ」というのは、死者の魂が、ぞうありたいと望むような肉体を与えられこの地上にふたたび現れる。
たいてい、「ゾンビ」たちというのは、生前の自分たちの姿に似せて、この世界に現れることを望んだ。生前の知り合いに、自分の存在を認めてもらうことを死者の魂は望むからである。
「ゾンビ」たちというのは、闇の世界から光の世界に急に呼び出されたわけだから、この世界に現れる時は、不健康な血色のよくない肉体をその魂にまとっていた。
衣装も、この時代というか、現代のファッションとかとは無縁の世界で暮らしていた死者の魂は、各々(おのおの)生前の暮らしで自分たちに馴染みのある衣装を身にまとって現れた。
「ゾンビ」の心の中身というのは、どんなものであろうか?
「ゾンビ」の心とは、死者の魂ということであるので、その中には、「生前やり残したことへの思い」、「生前親しかったものへのいろんな思い」などが渦を巻くように存在しているように思われる。
ところで、カミーユは、この「ゾンビ」というものを使って世界を征服するなどと言っているが、そのカミーユの世界征服のかたちというのは、どこかあやふやな「ゾンビ」というものの説明だけでは、一般のわたしたちにはそのイメージが湧かないのは当然である。
実際、カミーユは、この世界に多くのゾンビを出現させることには成功したのだが、カミーユは、このゾンビたちを思うようには扱えなかったし、操れなかった。
カミーユによってこの世界に呼び出された「ゾンビ」たちは、寝覚めの不安定なまどろみの状態にあった。
たいていの「ゾンビ」たちは、この世界に現れるやすぐに町の通りにしゃがみこんだ。
立っている「ゾンビ」たちも、通りの同じところを、よちよち歩きで、周回しているだけという状態であった。
カミーユは、この頼りない「ゾンビ」たちを使って、どのように世界征服を成し遂げようというのか?
おそらくは、「ゾンビ」たちの強い本能。つまり、「ゾンビ」たちが送り込まれた生者の世界を死者の世界に変えようとする本能を利用するのだと思われる。
それでも、「ゾンビ」だけでは、世界征服というのは、簡単ではないように思われる。
しかし、カミーユの一見稚拙な世界征服の計画の裏には、カミーユを操り、この世界征服の計画を立案した影の存在、黒幕の存在が予想されるのだ。
つまり、予断は許されないということだ。