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ブラックな世界到来 13

「なんか、事件でも起こったのね。町のほうが、えらく騒がしいのだが……」



焼酎のボトルを抱えた酔っ払いが、ドレミヒーローの一行に尋ねた。


ドレミヒーロー、両脇をロボット犬がエスコートしていた。


「そうなんですよ」


ドレミヒーローは、そう答えながら、酔っ払いが手に持っているビーフジャーキーの袋に気をとられた。


そのために、ドレミヒーローの移動速度が急激に低下した。


ドレミヒーロー、ハロルド洸一は、酔っ払いの前で立ち止まり、ドレミヒーロー、酔っ払いのビーフジャーキーの袋に思わず手を伸ばした。


「ワン、ワン、ワン」


ロボット犬は、ドレミヒーローに走るのを止めないよう、警告した。


ロボット犬のカメラでとらえたドレミヒーローの映像は、ヒーローズアカデミーの本部に送られ、分析が行われ、分析の結果に基づいて、ロボット犬に司令が送られた。


「こいつの空腹トラブルは、いつもより、深刻そうだが、そういうのは、かまう必要はない。ドレミヒーローは、裏ヒーローの契約だから」


「ワンワン司令」は、不器用な身体の動きドレミヒーローに真剣に走るようにうながしてして見せた。


やはり、最近、ドレミヒーローとしての自分の活動が認められない、評価されもしないので、それを気に病んでいるのだろうか?


ハロルド洸一は、空腹には、以前にもまして敏感になっていた。


ハロルド洸一は、自分では、心を強く持って、空腹に打ち勝とうと思うのだが、空っぽの胃袋は、ハロルド洸一の心と意志をむしばんだ。ハロルド洸一の心は、長年慢性的に続く空腹の為に確かに病んでいた。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、闘いへ向かう時、急に立ち止まって、もう動けなくなることがあった。


空腹のためだけにだ。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一の給料は、裏ベータミンCの購入ですぐになくなってしまった。食料に回す金などなかった。


ドレミヒーローと「ワンワン司令」の一行は、とある中華そば屋の前までやってきた。


ゾンビが大量発生している町の目的地までは、まだまだ、距離があった。


しかし、中華そば屋の前あたりで、ドレミヒーローの歩みが完全に止まってしまった。


ドレミヒーローは、「ワンワン司令」に頼んだ。


「ちょっと寄らせてくれないか」


ドレミヒーローは、「ワンワン司令」に懇願した。


「ワンワン」


「ワン司令」は、ドレミヒーローに足を止めず、走り続けるよう促した。


「ワンワン司令」は、ヒーローズアカデミーの本部に問い合わせることもない。


結局、「ワンワン司令」は、ドレミヒーローの提案を却下した。


「……」


ドレミヒーローは、むくれて見せた。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、中華そば屋の前から動こうとはしない。


ドレミヒーローは、コスチュームを着た外観からも、ひどくやつれているのが見て取れた。


「ワンワン」


ドレミヒーローの憔悴しょうすい具合も、「ワンワン司令」の心を動かす効果はなかった。


「そんなばかな、俺は、死のうとしている。この空腹はいつものと違う。誰か、分かってくれないのか」


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、怒った。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、中華そば屋ののれんを食い入るように見つめた。


「ワンワン」


「ワンワン司令」は、ドレミヒーローを厳しく威嚇いかくした。


「近頃、逃げや、言い訳が多くなった。ドレミヒーローさん。そういうのは、裏ヒーローの契約を脱してからの話だ」


などいう、いつもの文句で、「ワンワン司令」が、ドレミヒーローをり立てた。


「飢え死にしている仲間を、お前たちは、見捨てるのか?」


ドレミヒーローも、言い返した。


「ワンワン」


ワンワン司令は、いっそう激しくほええた。


中華そば屋の前で、「ワンワン司令」とドレミヒーローとの押し問答が続いた。


「ワンワンワンワンワン」


「ワンワン司令」は、強情なドレミヒーローを激しく威嚇いかくする作戦に出たのだ。


「恐いかって? もちろん恐いに決まってるわい。こここから梃子てこでも動かない」


ドレミヒーローは、なかなか「ワンワン司令」の思惑通りには動こうとしない。


「ワンワン」


それでも、中華そば屋の前のドレミヒーローを威嚇し続けた。


「ワンワンワン」


「逃げようとしてるなって? 逃げないよ。逃げられないの分かっているから。俺が妻、ハロルド奈津を見捨てられないのは、分かっているだろうが!」


ドレミヒーローは、言った。


「ワンワン」


「ワンワン司令」は、作戦を変えて出て見た。


「ワンワン司令」は、ドレミヒーローに対して、ねぎらいの言葉をかけてみた。


「だから、ちょっと、元気が出るもの食べたい。そういう、気分なんだけどね」


ドレミヒーローがほんのちょっぴり打ち解けた。


「ワンワン」


「ワンワン司令」がドレミヒーローをたしなめた。


「ぜいたくを言うなって」


そこに、「ワンワン司令」の一匹の犬がその場を離れた。


なにか、ヒーローズアカデミーの本部からの連絡を受けて、離脱したのだ。


「急いでくれとか、どっちみち何かの催促なんだろうな」


残った「ワンワン司令」に、ドレミヒーローが言った。


一匹残ったロボット犬は、ドレミヒーローをにらみつけた。


「ワンワンよ、少しは俺の話も聞いてくれないか」


しかし、残った「ワンワン司令」は、ドレミヒーローと馴れ合うのを拒否した。


「ワンワンワン」


ロボット犬は優しく吠えた。


「そう言われたって……。ところで、ちょっと、ゴメンよ」


とでも、ロボット犬は、言っているようだ。



そのとき、突然、ドレミヒーローは、残りのロボット犬にフェイントをかけると、中華そば屋に滑り込んでいった。


さすが、ドレミヒーロー。


ヒーローを名乗っているだけあって素早い。「ワンワン司令」も一匹では対応できなかった。


      #       #


「いらっしゃい」


中華そば屋の、親父は、お客の来店に喜んだ様子であったが、客のドレミヒーローのコスチュームを見たとたんに、態度が一変した。


「お客さん、すまないね。今日は店をしまちゃったんだよね」


「おかしいじゃないか。麺も野菜も、スープも満杯に見えるけど……」


必死のドレミヒーローは、指摘した。


「たしかに、麺は残っているし、スープもあるし、仕込みもすませて、店は万全の状態なんだが、しかし、どうもうまくはないんだよ。今日は、裏ヒーローとの商売は止められているんだよ」


「客が残して行ったこの料理でいいから。ここにある少しのレバニラ炒めとこの中華そばがあれば、けっこう元気が出そうなんだけどな」


ドレミヒーローは、この上ない人なつっこさを顔に浮かべると言った。


「しかたがないな」


やつれたドレミヒーローの笑みに哀れを感じた中華そば屋のオヤジが折れた。


そのとき、置き去りにされていた「ワンワン司令」が中華そば屋に突入してきた。


「ウー、グルグルグル」


「ワンワン司令」は、ドレミヒーローに食事を提供しようとしていた、中華そば屋のオヤジを威嚇した。


「こういう訳なんだ。長いつきあいだけど、今日は、勘弁してくんな」


ドレミヒーローは、観念して、中華そば屋の店を出た。


そして、そのときである。


ドレミヒーローがたまらず倒れ込んでしまったのである。


これは、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一が倒れたのは、空腹によるものではなかった。


最近、ドレミヒーローを襲っていた悪性のめまいによるものであった。


「ドレミヒーローさん、ハロルド洸一さん、大丈夫ですか」


おもての騒ぎを聞きつけて、中華そば屋のオヤジが出てきた。


「おめえらが、食わせるなとか言うから、食わせなかったんだが、あの様子じゃ。相当に重病だぞ」


中華そば屋のオヤジが「ワンワン司令」を非難する。


「ワンワン、ワンワン、ワンワン、……」


仕方なく「ワンワン司令」は、ドレミヒーローが頑張らなければならない事情を中華そば屋のオヤジに説明したのだ。


中華そば屋のオヤジは、「ワンワン司令」の言葉を理解した。


「子供の夢か、そうか、子供の夢か。子供の夢だったら、裏切るわけには行かないな。あいつには、世界平和のためにせいぜい頑張って、黙って死んでもらうしかないな」


「ワンワン、ワンワン、ワンワン、……」


「ワンワン司令」と中華そば屋のオヤジは、意気投合した。


「歌って、踊れるヒーロー、これにいつの時代も子供たちはあこがれてしまうんだよ。『なんちゃってヒーロー』の頃はまだ良かった。これが、俺たちにとっちゃきゅうきょくの真理というべきものさ」


中華そば屋のオヤジと「ワンワン司令」は、だいたいそんなことを語り合った。


「ワンワン!」


ドレミヒーローの意識が戻った。


「ワンワン、ワンワン、ワンワン、……」


それは、「本気か、本気で具合が悪いのか。それならそうと、なぜ早く言わないか」と言う意味であった。しかし、それは、本心ではないことは、それまでの「ワンワン司令」の態度から自明であった。


「ワンワン司令」は、(ロボットだから)形だけの優しい言葉を、ドレミヒーローに投げかけた。


それでも、ドレミヒーローは、それを聞くと、最後の力を振り絞り、よっこいしょと立ち上がって、「ワンワン司令」に愚痴った。


「言っているじゃないですか。ヒーローズアカデミーの契約の時からちゃんと言っているんですよ。だんだん、病気も進んでいるので、そろそろ仕事もやれなくなってしまうかもってね」


そのときである。


「ワンワン」


先ほど、離脱していった「ワンワン司令」のロボット犬にまた連絡が入った。


連絡を受けた「ワンワン司令」は、もう一方の「ワンワン司令」に報告した。


「おかしいなぁ。ドレミヒーローは、ヒーローズアカデミーから除隊したことになっているぞ」


「どういうことだ?」


「円満除籍! ドレミヒーローは、裏ヒーローズアカデミーより、裏ヒーロー契約が終了し、円満除籍されてます」


「ワンワンワン」と、もう一方の「ワンワン司令」が、話し合っていた。


「そういうことは、今考えることではない。目の前にある任務が終わって、ゆっくり考えることである」


という結論がでて、「ワンワン司令」は、そのまま裏ヒーローとして、ドレミヒーローを追い立てて、戦いに向かうことになった。




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