ブラックな世界到来 12
岡寺のぶよは、今になってもはっきり覚えている。
あのパーティーの四次会で、自分がドレミヒーローこと、ハロルド洸一が起こした事件を目撃したことを。
それは、ずっとあとになって岡寺のぶよが、コーヒーパーラー「ライフ」の常連客となり、ヒーローズアカデミーのファンになった自分として考えて見ると、とんでもない事件を目撃したものだと思えるようになってきた。
だから、岡寺のぶよは、最近ではあのパーティーのことや、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一が引き起こした事件について、何度も思い返してみたりする。
また、あの時ドレミヒーローこと、ハロルド洸一が起こしたことが、どういう結果をもたらしたのか、自分の占い師としての人脈を最大に生かして、あの事件に関係する情報を今も集めている。
岡寺のぶよは考えている。
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一が、あの時やらかしてしまったことは、二つの結果を生むことになった。
まず、ひとつは、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一が、あの事件がきっかけとなって、ゾンビ菌に感染してしまったことである。
四次会の席のファミレスで、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、無料のコーヒーの飲みつづけた。
挙げ句、トイレとテーブルの間を何度も何度も行き来するような状態になっても、無料コーヒーを飲み続けていた。
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、無料コーヒーを十回もお代わりすると、不本意ながら意識が混沌としてきたのだ。
騒動が起きて、ドレミヒーローや、四次会の参加者たちが、ファミレスを追い出されたことを覚えている。
そして、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一が、気がつくと、彼はとある病院の集中治療室のベッドの上にいた。
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、悪酔いの患者としては、重病人のように扱われるのが納得が行かず医者に抗議した。
翌朝、ハロルド洸一は、病院の医師に、彼の肉体がゾンビ菌に犯されてしまったことを知らされた。
ゾンビ菌に感染してしまったなんとことは、実験室以外では当時は例がなかったことである。
謎の薬、ベータミンCが、ハロルド洸一に試験的に投与された。
以降、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、研究の対象としての人生を送ることになった。
ドレミヒーローが、ゾンビ菌に感染したことは隠されたが、いつか噂として町中に流れるようになった。
ドレミヒーローは、自分が守ってきた子どもたちからも理由のない攻撃を受けるようになった。
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一が、あの時やらかしてしまったことは、二つの結果を生むことになった。
その二番目の結果は、彼のゾンビ菌の病やパーティーの四次会での不品行が、ヒーローズアカデミーの中で問題になったことである。
そして、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一のヒーローズアカデミーと契約は、打ち切られた。
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一の契約は、裏ヒーローズアカデミーとの「ブラック契約」に変えられてしまった。
裏ヒーローズアカデミーの話は、岡寺のぶよが、高見沢治美などから聞いたことや、ヒーローズアカデミーで、語られている噂話にもとずくものである。
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ところで、ヒーローズアカデミーとは何か? 裏ヒーローズアカデミーとは何か?
よく知られているように、ヒーローズアカデミーとは、NPOの組織であり、アイドルが持つ優れた能力を生かすことによって、ヒーローを育て、よりよい社会を作り上げようという組織である。
ヒーローズアカデミーの中では、多くのヒーロー人材の中から、よりすぐれたエリートを選抜され、彼らを悪と戦う本物のヒーローが育て上げられている。
裏ヒーローズアカデミーは、ヒーローズアカデミーに関係する組織である。その正体は不明ではあるが、その契約が、ブラック契約であることが知られている。
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このたびのパーティーの四次会での不品行と、ゾンビ菌の病という不名誉な病のために、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、ヒーローズアカデミー本部のリアリティヒーローとしての輝かしい地位を奪われて、裏ヒーローズアカデミーに配置転換された。
それから、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、裏ヒーローズアカデミーに所属し、ブラック契約の下で、悪の組織と奴隷のように闘いに明け暮れ、雑用に酷使され、すでに、何十年という時間を過ごしていた。
さらに、ハロルド洸一には、とある別の嫌疑がかけられていた。
そこで、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、四六時中、別の組織の監視下にもおかれていたのである。
ハロルド洸一にとっては、味方と呼べるものは、いまや、アイドル養成所時代の仲間と、妻、ハロルド奈津だけであった。
落胆のハロルド洸一の元に、ある知らせがもたらされた。
「まもなく、重要な闘いが起こる。そこで、勝利すれば、君の本部復帰を約束しよう」
「ドレミヒーローこと、ハロルド洸一よ。君の好きな『チャンス』がついに巡ってきたと言うわけだ」
その連絡のメールの終わりには「ウフフ」と意味深な笑いを示す言葉が記されていた。