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ブラックな世界到来 11

ついに、ドレミヒーローの出撃の時が訪れた。


「ワンワン司令」と呼ばれるロボット犬二頭が河川敷にあるドレミヒーローこと、ハロルド洸一の住居のアパートに到着したのだ。


「ワンワン司令」の二頭のロボット犬は、ヒーローアカデミーの滝ふたばの指令に従い、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一のエスコートにあたることになっていた。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一を見送るのは、ヒーローアカデミーの同僚、高見沢治美と、見送りになんとか間に合って起きてきたドレミヒーローの妻、ハロルド奈津であった。


「頑張ってね! でも、いまの私に出来ることはこれだけ」


高見沢治美は、そう言うと、コーヒーパーラー「ライフ」のマスターから手に入れた闇ベータミンCが入った箱を、ドレミヒーローに手渡した。


『闇ベータミン撲滅キャンペーン』のキャンペーンシールが「ワンワン司令」のロボット犬のボディに貼られていた。


しかし、ワンワン司令のロボット犬たちは、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一の闇ベータミンCには、見て見ぬ振りを決めている。


高見沢治美が持参したベータミンCを箱から一本を取り出しながら、残りのベータミンCの入った箱を高見沢治美に返した。


「治美さん、これは、預かっといてよ。これが最後の戦いというわけではないのだから」


ドレミヒーロー、ハロルド洸一は、堂々と「ワンワン司令」の前で、闇ベータミンCの封を切った。


「私もその闇ベータミンCのお世話になっているその一人なんですけどね。ちょいと失礼します」


自分の血が刻々とゾンビ化していくのを実感するドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、自虐的になっていた。


ドレミヒーローは、封を切ったベータミンCを一気にあおるように飲み干した。


「ウーン。苦しい。」


ベータミンCが、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一の体の隅々にまで染みわたっていった。


「……」


「最近ろくな食い物食ってないから、薬が身にしみるなぁ」


ドレミヒーローが空腹感で愚痴った。


「ワンワン」


「ワンワン司令」が急に吠えだした。


「さっさと、出撃しろというのか? かさないで。俺はこれから戦うのに、とってもお腹が空いているんです。この二、三日まともなものを食べていないのです」


「ワンワン」


「ヒーローには、こっている時間などないんですか?」


「ワンワン」


「犯罪は、ヒーローを待っていてはくれないんだって?」


「ワンワン」


「できるだけ、ご意見に沿うように頑張りたいのですが……」


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、それでもたまらなく腹が空いていることを実感していた。 


「ワンワン司令」のロボット犬は、ドレミヒーローの空腹感を想像できないのか、ドレミヒーローのことをかすばかりだ。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、ロボット犬たちにときどきある疑問を抱いた。


「この犬たちは俺を殺そうとしているのでは? こいつらは、俺が死ぬような目に遭ってもお構いなしなんだろうな。血の通わぬロボット犬は、自分の仕事をこなすことしか考えていない」


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、子供のようにダダをこねてみたくもなった。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、通り道のコンビニの棚にあったカップ麺を思い出し、あれでも食べなきゃ戦闘できないなどと子供のようなダダをこねてみた。


「『ワンワン司令』に急ぎの用事があるならば、俺をおいて先に出発してもらえばいい。俺は、コンビニでカップ麺を食って行く」


ドレミヒーローの夫人、ハロルド奈津は、そんなドレミヒーローを何とかなだめようとして、つい口論になった。


「そんなことどうしたら考えられるの?」


夫人のハロルド奈津がドレミヒーローをたしなめた。こういうときには、高見沢治美が夫人に味方した。


「……」


ドレミヒーローは、むくれて返事もしない。逆効果だったのか?


しかし、ドレミヒーローの妻、ハロルド奈津は黙っていなかった。


「ロボット犬がついているから、リアリティヒーローとして何とか様になっているわけで、犬たちがいてくれなかったら、とびきり変な衣装を着て町を駆け回っているヘンなおじさんでしかないんだよ」


夫人のハロルド奈津は、そういって、とどめを刺すとドレミヒーローは、しぶしぶ出撃していった。


ダダはこねてはしてみたものの、事態の緊急性というのはドレミヒーローも良く理解していた。


今回も、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一が折れ、空腹のまま出撃することを受け入れた。


ドレミヒーローは歩き出した。


するど、何を思ったのか、あとから、高見沢治美が小走りで、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一を追いかけてきた。


高見沢治美は、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一に絶対に伝えなければならないことがあった。


それを伝えるために、高見沢治美は、駆け出した。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、追いかけてくる高見沢治美の方をみた。


「ドレミヒーロー、あなたはもう戦う必要はないのです!」


高見沢治美は、そう言いたかった。そう言おうとすると声がでなかった。


ドレミヒーローのことを待っている町の人たちの顔が高見沢治美の頭に浮かんだのか、それは、わからない。


高見沢治美は、ドレミヒーローを引き止めようとすると声がでなかった。


ドレミヒーローは、高見沢治美のことを怪訝けげんな顔つきで見てきた。


「忘れてた! そう、うちの劇団の次の公演、『ゾンビの夢』というストーリーに決まったから、一応報告しておくからね。こんども、公演でも迫力ある演技を期待しているね」


結局、高見沢治美は、思っていたことをドレミヒーローに伝えられなかった。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、一瞬ドキッとした。


嫌な予感がしたのである。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、しかし、それを隠すように高見沢治美に答えた。


「ヒーローズアカデミーさんの期待には、絶対に答えなきゃ。そりゃ、はりきっていますよ。ヒーローは、負けることはありません」


「ワンワン、ワンワン」


ロボット犬に促されて、ドレミヒーローは自動車なみの速度に加速した。


ドレミヒーローこと、ハロルド洸一の心には、今回は、勝てる確信というものがなかった。

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