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ブラックな世界到来

最近、この町では、たとえば『龍の形見』のような、手のひらにるほどの大きさのスノードームの中に広大な空間を展開するという、魔法のごとき所業が頻繁に行われている。


このスノードームの中に、頻繁に生み出されている広大な空間は、所詮しょせんは虚構の世界の出来事と軽く見てはいけない。


スノードームの中に生じた空間は、やがて現実の世界の空間にも影響を与え、現実の世界の空間を壊してしまいつつあるようだ。


たとえば、この町の空はすでに、壊れかけている。


この町をおおう空は、晴れていても青さを失い、乳白色蓋ふたが町をおおっているかのようだ。


そんな壊れかけの空を見上げ、うらめしい顔をしたバンドマン ツヨシが、コーヒーパーラ「ライフ」にやってきた。


滝ふたばと入れ替わるようなタイミングで、コーヒーパーラー『ライフ』に、バンドマン ツヨシが現れた。


バンドマン ツヨシは、ふてくされた様子で、コーヒーパーラー「ライフ」に入ってきた。


バンドマン ツヨシの体からは、憤懣ふんまんの蒸気が噴き出していた。


コーヒーパーラー「ライフ」のマスターは、バンドマン ツヨシの様子をちら見みした。


怒りの感情というのは、バンドマン ツヨシにしては珍しいことであるのだが、けっこう本気で怒っていた。


バンドマン ツヨシは、聞かれもしていないのに愚痴を言い始めた。


「いままで、滝ふたばさんとかいう人のお家うちで、ゾンビの片付けをやらされていたんですよ。たまらない仕事でした」


バンドマン ツヨシは、自分の憤りが理解してもらえたかどうか、マスターの顔をチェックしてみた。


コーヒーパーラー「ライフ」のマスターは、なにやら、思いにふけっていたそうで、心ここにあらずという様子だった。


で、バンドマン ツヨシは、独り言みたいになったが、語るのをやめなかった。


「なぜ、ああいう嫌な仕事になると、うちの会社『平安クリーンスタッフ』がとっちゃうんだろうね。そして、その嫌な仕事が必ず俺に回ってくるというのも、作為を感じちゃいますね。俺が、毎年巨大ネズミの死体処理をやっているからって、ゾンビの死体の処理を命じられてるのかなぁ?」


「……」


「せっかくの休みだから、本腰入れてバンドの練習に励もうとしていたのに……そんなときに、何で俺が、ゾンビの死体処理なんだよ。それにしても、今度のは嫌な臭いだ」


ゾンビの死体処理をすませてコーヒーパーラー「ライフ」にくるまでに、ゾンビの死体処理でバンドマン ツヨシの体に染みついた臭いがまったく抜けなかった。


「これまでは、これほどの異臭に出くわしたことがない。世の中、これまでとは、様子が違ってきたのか」


それどころか、ゾンビ臭は日ごとに濃密さをましてバンドマン つの周りに漂うように感じられた。


「そんなはずはないのだが……きちんと消毒も清掃すませている」


      #       #


そして、ゾンビの異臭を生んだ異変が原因か、バンドマン ツヨシ(つよし)の体調が、にわかにおかしくなった。


バンドマン ツヨシは、コーヒーを注文すると、トイレに直行した。


バンドマン ツヨシは、トイレに、長くとどまったため、コーヒーは冷め、マスターは、コーヒーをれ直さなくてはならなくなった。


トイレから出てくるとバンドマン ツヨシは、ふと、窓から通りやさらに遠方の様子を眺めた。


ふと、バンドマン ツヨシがつぶやいた。


「また、いやな風が吹き始めて、遠くの雲が稲光で輝いている。ひと嵐吹きそうな予感がしたよ」


バンドマン ツヨシは、つなぎのポケットから古い、しわくちゃな紙を取り出した。


マスターは、バンドマン ツヨシが取り出したその紙を気にとめた。その紙には、尋常でない威厳があった。


バンドマン ツヨシがマスターに説明した。


「仕事の出先で、不思議な用紙が落ちていたんで、拾って来たんですよ」


「トイレにいる間、読んでいたんですけど、これは悪魔との契約書なのかと思うくらい、一方的で、ブラックな内容の契約書になっています。ただ、サインがあまりにも崩し字で書かれているので、誰と誰との契約かは分からないのです。マスター、分かりませんか? 」


バンドマン ツヨシは、マスターにその用紙を渡してみた。


マスターは、用紙を受け取ると、契約書の内容に目を通した。


バンドマン ツヨシは、聞いた。


「どうなんでしょう」


「そうだね。僕にも読めない」


マスターは、そう答えたが、この契約がバビル協会と岡寺のぶよとの間に交わされたものであることを読み取っていたが、それをバンドマン ツヨシに伝えることはなかった。





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