ユーカラ
「カムイの使いの方、お名前を伺っても
よろしいですか?」
『はい、カエデ(楓)ともうします』
「カエデ様、こちらが妻のアシリレラ
それでこちらが息子夫婦と孫達でございます」
頭をこくり
「こちらが妻の母ですがユカラをやります」
『ユカラ?』
「ご存知ないですか?
英雄叙事詩のことでございます」
『まあ~、叙事詩があるのですか
それは、それは▪▪▪
過去にすごい文明があったのですね~』
「たぶん、そうだと思います
いにしえの英雄譚でございます」
『よかったらほんのさわりだけでも
聞くことは可能でしょうか?』
「もちろん大丈夫でございますとも
イワンパヌ婆、お願いできますか?」
「ウムウム」
「郷の神の兄神(夫)はなぜかずっと目を閉じていてな~
それでも何でもお見通しだった
郷の神の姉神(妻)はいつもお裁縫をしていて
とても幸せに暮らしておった
部屋の中は宝器が並び、
かかってある太刀は光り輝き、
その房がゆれると屋内に白雲黒雲が
たちこめるのであった
姉神のぬった刺繍のおもてからも
神雲がたちのぼったものであった
二人の神様は少女の神様を預かって育てておってな、大事に大事に育てられ
妹神はすくすく育っていった
毎日這いずりまわって、
ときには灰だらけになって、
ひとり遊びをしていたが
成長すると姉神のまねをして
布をねだって裁縫する
あっちこっち、ひきつれて、ゆがんだり
させて、ハイ出来ましたと姉神に手渡すと
姉神、おお上手なこととほめながら
息を殺してクスクス笑う
妹神は足をバタバタ泣きわめき、
泣きあばれると
姉神は自分で自分の頭を叩いて、
『おお、こんなに上手なのを、
何わたしが笑うもんですか、
笑ったのは下女たちのこと
さあさあ泣くんではない、
もうひとつこしらえて頂戴!』
妹神はけろりとおさまって、
また布をにかませに夢中になるのであった
▪▪▪▪
」
『へえ~おもしろいですね~
妹神の許嫁の幌尻の神が
誤解、嫉妬から妹神を殺して
ただ、妹神にお酌をしてもらっただけ、
たまたま立ち寄った
名も無き西浜の神が妻を盗んだとされ
幌尻の神と戦うことになってしまい
天界で幌尻の神に加担した神たちと戦い、
冥界で幌尻の神に加担した神たちと戦い
命尽きるも西浜の神が使っている神々に
より、西浜の神も妹神も蘇生して
他に戦いをさせるばかりで自分は
戦わなかった幌尻の神を
西浜の神が冥界の遥か底になげすえた
その名も無き神といっていたのが
実は伝説の神雄、アイヌラックル
ということだったんですね
』
アイヌ叙事詩 ユーカラ集1
金城まつ筆録 金田一京助訳注
を参考にさせて頂いております