第三十三話 逮捕の裏側16 柔軟な思考の弟
精神干渉する能力というのは一般的には一人に対して適応されるものである。
感覚置換もまた然り。
しかし弟は、
『二人まとめて代わってやるよッ!』
その固定概念にとらわれてはいなかった。
自ら発した声と同時に弟の視界の半分は水の中、もう半分は弟自身の部屋を映し出す。
弟は正人と服部を同時に置換したのだ。
服部に完全に自由と意識を奪われた正人には何も見えていない。その光景を共有しているのは弟と服部の二人であった。
直後、
「ガッハッ!」
正人の肉体を乗っ取った服部が身体を折り曲げ、胸に感じる苦しさで咳をした。床に落ちたのは紛れもなく正人の口から出た赤い血だった。
瞬間、正人の身体から鉛のような重さが抜け落ち正人は意識を取り戻し、服部の霊体から解放されたことに気がついた。
弟はこれを狙っていたのだ。
精神干渉の対象人数は一人。何故、一人とされているのか。それは発動した本人と干渉した相手に負担がかかり正確な能力を発揮することが出来ず失敗し、吐血するからだ。
弟は既に実験済みであった。
能力者に対して実行するのは今回が初めてであったが、推測はしていた。
"精神干渉系の能力者同士がぶつかり合ったら力が反発して身体にかなり負担が掛かるんじゃね?"
"複数の非能力者に対して行った場合よりもかなりの負担が"
弟の推測どおり、力が反発し服部の霊体が弾き飛ばされた。
当然、弟も無事では済まなかったわけで自室のシングルベッドに手を着いて片手で胸を押さえ数度咳き込むと真っ白なシーツを赤く染めた。
「ゴッホゴホ!」
霊体化した服部は自身の身体に戻り、床に膝をついた体勢で咳をし、赤い血で床を汚した。
「な、んなんだよ。おまえは!」
苛立ちと怒りを露わにし、血で汚れた口を袖で拭いながら服部は立ち上がった。声が震えている。
正人はゆらりと折り曲げていた腰を伸ばし立ち上がった。
両者とも、肩を上下させ息をする。
服部の能力と弟の感覚置換の影響だろう。
弟は能力を置換から共有に切り替え、正人の口から服部を煽るような言葉が発せられた。
「やっぱり、おまえが殺人犯じゃねぇーか。とっとと認めて自首しやがれ!」
"おまえがどうこうしようが証拠はもう揃ってるし、逃げらんねぇーよ?"




