第三十話 逮捕の裏側13 回避と覚悟
背後を目視し、幾つもの座席を飛び越え、ある程度距離をとったことを確認した正人は足を止めた。そして、身体を九十度動かし左の爪先のみを目視した方へ向け、右の爪先は再度回避するための準備をする。
正人の視線の先には服部の姿を象った白い泡蛇の塊が一つ。
それはシルエットのみであり、目や鼻等のパーツはなく、まるで泡でできたのっぺら坊のようだ。
シルエットは、右手を前方へ真っ直ぐ伸ばしたまま立ち尽くしていた。
立ち尽くしたシルエットと正人の視線は決して交わることはなかったが、それの顔の向きは正人の方へ向いていたのでジッと正人を凝視しているようであった。
先程正人が回避した泡蛇の塊の正体は、真っ直ぐ前方へ伸ばされたシルエットの──霊体化した服部の右手であった。
『え⁉︎ 正人君、視えてるの⁉︎』
受令機から課長の驚愕する声が鼓膜を叩きつけた。
チッ、あとの弁解が面倒くせぇな、まぁ臭いと直感で分かったとでも言っとけば何とかなるか……。
服部から距離をとり、少し余裕が出てきたところで弟の思考が刹那出現し消失する。弟の専門は頭脳戦であり接近戦は皆無であったからだ。
泡蛇の塊が──服部が右手を下ろし、ジリジリと身体の向きを正人へ向け、浮遊した。
『正人くんッ! 今そっちへ服部が───』
鳥が翼を広げ飛ぶように服部が両手を広げて正人を目掛けて飛行する。
『───来るわ! そのまま逃げて!』
身体を再度、九十度動かし服部に背を向け視線を外す。そして、服部に向けていた左の爪先を右の爪先と同様の方向へ揃えたかと思えば、そのまま勢いよく左足が右足を追い越し正人は走った。
二つの思考がリンクし────悟る。
服部から確実な証拠を得るために身体を一度乗っ取られる覚悟をしなければならないということを──。




