第二十六話 逮捕の裏側9 兄と弟
「お、弟?」
服部は視線を散乱させ、わかりやすく動揺した。
そりゃそうだよなぁ。
加藤大輔の弟と服部和毅は面識がない。動揺するのは普通の反応だ。
「この場所に来たってことは何か思うことがあったからなんじゃないのか?」
正人の口から発した声は、正人自身のものではなく、加藤春樹のものだ。
押収した加藤大輔の携帯データに弟である春樹のビデオが保存されていた。そこから椿が春樹の音声データを"カメレオンボイス"という人の声を自身の声とすり替える装置に取り込み、正人の喉仏に取り付けたのだ。一般的にボイスチェンジャーと似たものだ。吸着タイプでどこにでも取り付け可能で付けた場所の皮膚と同色に変化する装置である。開発者はもちろん椿だ。
あぁ~良かった。ちゃんと対応できてる。順応し過ぎてどっからどこまでが俺の言葉なのか分かりづらいけど、この質問は絶対俺じゃないな。だって、俺だったら直球で「おまえが犯人だ!」て指差して台無しにしてるとこだったし……流石は弟。
正人自身、面識のある服部に見破られるのではないかという不安よりも服部を上手く煽るような対応ができるのかという不安の方が上回っていた。
正人はわざと服部を小馬鹿にするような話し方をしていた。これも勿論のこと正人自身の言動ではない。服部を翻弄するような言動は正人のもう一つの思考による策であった。
ペースを乱されてはならないと服部は冷静を装おうとする。
その様子を見て正人は内心細く笑んでいた。
それは、思惑通りに事が進みそうだと安堵したためだった。




