第一話 高良正人 初めての事件
雑務総務課に入って三か月程経過した。
雑務をこなすのに随分慣れてきた。
でも、他のメンバーよりも重い物を運ぶ作業が多いのは気のせいか? 明らかに事務作業が少ない気がする。よく第一印象でスポーツ得意そうとか言われるから、肉体労働が多いのか?
などと考えながら、いつものように他部署の雑務をこなしていれば、課長から雑務部に集まるよう収拾がかかった。
「いやぁ~、参った参った」
そう言いながら課長が部署に戻ってきた。
顔面のど真ん中に真っ赤な靴跡をつけて。
……めっちゃ痛そう。
「課長、その顔は……」
「一週間前に殺人事件が起こって、捜査第一課が調べを進めてたんだけど、これがどうもおかしな事件でね」
課長をよく見れば、朝はピシッとしていたスーツも中に着たシャツもヨレヨレになっている。
え? なんで皆んなそんな平然としてんの?
驚いてんの俺だけ?
「……で、その事件と顔は一体、何の関係が?」
「私はね、この事件は能力者が関わっていると踏んだ。だから、情報を寄越せと捜査第一課に乗り込んだんだけど、なかなか首を縦に振ってくれなくて、仕方ないから革靴を舐めようとしたら、騒ぎを聞きつけた隣りの刑事総務課の課長に飛び蹴りされてこのザマだよ」
やれやれ、と掌を上に向け首を横に振った。
「でも大丈夫! ちゃんと捜査資料貰えたからね!」
と課長は分厚いファイルをひらひらと笑顔で掲げた。
「まぁ、気にすんな後輩。これがうちでの普通だ」
ポンポンと肩を叩かれ振り返ってみれば、士郎さんが視線を明後日の方へ向けて遠い目をしていた。
「これが普通⁉︎」
マジかよ⁉︎ 情報収集で毎回こんな目にあってんの⁉︎ 課長!
***
ホワイトボードに大まかな情報を課長が書いていく。
【被害者】
服部 恵子(42歳)
職業:専業主婦
その他:
夫と二人暮らし
近所付き合いは良く、婦人会に毎回参加している。
夫の帰宅が遅く、近所では夫の不倫疑惑がある。
死因:事前購入しておいた包丁で胸腹部を複数回刺されたことによる失血死
殺害現場:被害者宅二階の夫の書斎
【加害者】
加藤 大輔(40歳)
職業:会社員
その他:
被害者の夫の同僚
勤務態度に問題無く勤勉で上司からの信頼も厚い
被害者との面識無し
【被害者の夫】
服部 和毅(43歳)
職業:会社員
その他:
加害者の同僚
勤務態度に問題無いが書類作成等のミスが多く上司に叱られる様子がよく見られている。
女遊びも激しく、不倫疑惑あり。
「じゃあ、始めようか」
書き終わった課長がホワイトボードに背を向けて言った。
警視庁に入って初めての事件だ。
緊張で俺はゴクリと息を呑んだ。




