鍵
おや。
落し物ですね。
鍵が一本、落ちています。
これは、どこの鍵でしょうか。
おや。
扉が現れました。
鍵をさしてみましょう。
ガチャ
ああ・・・。
これは。
あの日、カラオケパーティーで机の上に広げた、オードブル。
料理好きの貴方が、一生懸命作って持っていったんですよね。
から揚げ、ポテトサラダ、サンドイッチ、チーズスティック、肉団子、卵焼き。
「うわっ!!これまっず!!!」
たった一人の一言で、誰一人手を付けることがなくなった机いっぱいのオードブル。
おや、貴方手を伸ばして食べるんですか?
おいしいですか?
「おいしいです。おいしかったのです。食べることができて、良かった。」
テーブルの上のオードブルは、すべて食べられてしまいました。
扉がまもなく閉まります。
おやおや。
また落し物ですね。
鍵が一本、落ちています。
これは、どこの鍵でしょうか。
おや。
扉が現れました。
鍵をさしてみましょう。
ガチャ
ああ、ここはあの日ののど自慢大会会場ですね。
誰も出てくれないから、出てくれないかなあと頼まれて出た、あのステージ。
20人出場の、10人目に立ったあの舞台。
誰もがあふれんばかりの拍手を受けていたというのに。
貴方が歌い終わったあと、拍手をくれる人がいませんでしたね。
おや、貴方、拍手をしてくれるんですか?
「ええ、とても上手に歌っています。歌えていたんです。」
うれしいですね、みんながつられて拍手をし始めました。
あふれんばかりの拍手の中、貴方はお辞儀をしています。
扉がまもなく閉まります。
おやおやおや。
またまた落し物ですね。
鍵が一本、落ちています。
これは、どこの鍵でしょうか。
おや。
扉が現れました。
鍵をさしてみましょう。
ガチャ
ああ、この部屋は。
初めて挑戦した、たどたどしい物語を書いた部屋ですね。
薄暗い部屋の中、ただひたすらにキーボードを叩いたあの日。
泣きながら文字をつなげて、ここがスタートなんだと決めましたね。
おや、貴方、この物語を読んで下さるんですか?
「この物語を書かなければ、始まらなかったのです。読みたいのです。」
あれからずいぶん、物語を書いたようですね。
これからも、書いていけると信じていますよ。
扉が、閉まりました。
今日拾った鍵は、三本でした。
また拾う日が来るかもしれませんね。
拾ったら、また私と一緒に、覗き込みましょう。
目をそらさないで下さいね。
約束ですよ。