九拾二
6月15日(金)?時??分
「ん?どこだここ」
鏡に全身を写したのは覚えているが、気がつくとおれは見覚えのない場所に突っ立っていた。
トンちゃんの気配もないし、辺りに人影もない。
分かるのはここがどこかの建物の中で、大量の本があるということだけだ。
いや、まあ大量の本がある時点でお分かりだとは思うけど、図書室です。
規模からいったらおそらく小学校。
……。
おそらくとかじゃなく小学校の図書室だ。
ただ記憶が曖昧なせいで確信が得られないと言うか…。
いや、本当に懐かしい!
ここはおれが通っていた小学校だ。
なんでこんなとこにいるのかはわからないが、その図書室に突っ立っている。
てか鏡は?
何の説明もなく何をすればいいんだ?
よく分からないからとりあえず近くの本棚から挿し絵の多い本を調べていく。
「ふむ」
数時間後
「…はっ!」
思わず集中してしまった。
普段発揮されないおれの集中力は、主に読書の時に活躍する。
柱に掛かっている時計を確認してみると、なんか2時間ほど経過していた。
テーブルにはおれが読み終えた本が山積みだ。
ざっと十冊以上ある。
いや~、ずっこけな3人組もキツネのゾロリも懐かしいなー(棒読み)
それにしても、まったく何もないな。
待ってれば何かしらあると思ってたんだけど(←後付け)
「…ん?」
ふと耳を済ませてみるとチャイムの余韻が聴こえた。
たぶんこれで集中が切れたんだろう。
少しするとざわめきがこの図書室まで届いてきた。
時間帯からして、授業が終わったのか。
カラカラ…
すると突然スライド式の入り口から入ってきたのは小さな…
「…え~(汗)」
おれだった。
合点がいった。
今おれは小学校に通っていた頃の記憶にいるらしい。
確か小学校では給食が終わってから昼休みだったはずだから、食べる前に抜け出してきたのか。
そういえばそんなことしてた記憶もないことも…
…あれ?思い出せない。
まあ五年以上前のことだし、そんなもんかな?
おれ(小)は無言で持っていた本をカウンターの返却ボックスに入れた。
どうやら近くにいるおれには気づいていないようだ。
試しに咳払いしてみても反応がないことから、おそらくおれの存在を認識できてはいない。
それにしても…
「可愛くねえな、おれ」
無表情に本棚を眺めている小学生のおれには、小学生特有の明るさとか活力のようなものが感じらんない。
大きさからいって小学三年生ってとこだろう。
この頃はまだおかっぱのように前髪がパッツンだ。
それに驚くことなかれ。
髪は全てストレート、つまりまっすぐでサラサラだ。
てか名札には[3年1組]と書いてある。
まだこの頃は目が悪くなっていなかったからメガネはつけていない。
確かメガネをかけ始めたのは小5の時だったかな?
青いフレームのメガネ。
確か何度もボールが当たったり体育の時間に歪んだりして壊れたんだっけか。
まあ今は関係ないか。
客観的に見て小学生のおれは落ち着いた、というか静かな感じだ。
てか気配がほとんどない。
足音もあんまりしないし。
一番特徴的なのは、
カラカラ!
「あら、みやざきくん!まだ給食の時間よ」
その時図書室の入り口が開いて年配の女性が入ってきた。
覚えてないけど、たぶん司書の先生かなんかかな。
「はい、ごめんなさい。続きが気になっちゃって」
おれ(小)はすまなさそうに先生に近づいていくと、何冊かの本を差し出した。
「これおねがいします」
「はいはい。次からはダメよ?ちゃんと給食を食べてからね」
「はい。ありがとうございました。しつれいします」
そう言っておれ(小)は図書室を去っていった。
おれはそれを見送ることしかできなかった。
あの先生は気づかなかったようだが、おれは見てしまった。
先生が声をかけた瞬間、スイッチが入ったように無表情だった顔に表情が浮かんだのを。
その変わりようは端から見たら異常としか言えないものだった。
声もわざとらしく、子供が真面目ぶったような感じになるように演技していた。
そして何よりもあの眼差し。
まるで死んだ魚のように、瞳には何も写ってはいなかった。
かつての自分のことなのに、おれはまったく理解できない。
おれは覚悟を決めて、かつてのおれの後を追った。
6月15日(金)?時??分




