八拾八
6月15日(金)?時??分
ゆっくりと目を開けると、俺は学校の教室にいた。
第一と第二の試練とは違う場所…。
「ここは…」
教室の中を歩き回る。
もちろん俺はここがどこだかわかっていた。
黒板には、こう書かれている。
『9月24日(木) 日直:阿部佑輝・五味夏海 今日の目標:授業中寝ない』
これで、ここがどこかだけでなく今がいつかもわかった。
今日は20××年の9月24日だ。
場所は小張中学校3年2組の教室、時計の針は午後3時50分を示している。
「これが第三の試練…?」
驚いていると、教室の後ろの戸が開いて三人の男子中学生が入ってきた。
俺は彼らの直線方向にいるが、多分俺のことは見えないんだろう。
俺はその三人のことをとてもよく知っていた。
「や…ヤバい、緊張してきた…」
「ハハッ、落ち着け落ち着け。せっかく俺の香水で汗臭いの消したのにまた汗かくぞ」
「佑ちゃんウブウブじゃねーか」
一人は当時の俺のクラスの学級委員。
一人は俺の一番の大親友。
そしてもう一人は、中学三年生の俺だった。
「じゃあ頑張れよ地味色男」
「検討を祈るぜ四枚目」
俺以外の二人はそそくさと教室を出て行く。
一人残った中三の俺は、そわそわしながら教室内を歩き回っていた。
俺はこの日のことを昨日のことのようによく覚えている。
この状況はなんだ?
一体俺は何をすればいいって言うんだ!
6月15日(金)?時??分
『小僧!小僧!おい、起きろ!…【シュールバルタの鏡】よ、お前小僧に何をした!』
鏡を通り抜けるなり、ちょうど合わせ鏡になるようにもう一枚の鏡が立っていた。
それに小僧が全身を写した瞬間、小僧の体が硬直し次の瞬間には受け身も取らずに倒れた。
『第三の試練を受けて貰っています』
激昂する俺に、【シュールバルタの鏡】はあくまで淡々と応える。
その平然とした態度に俺の心はさらに荒ぶり、ついには実体化してしまった。
『第三の試練だと!?ふざけるな!あれはあくまで試練を受けるものが最も心層に傷を負った、
いわばトラウマの対象となった人物と真っ向から対話するものだろう!
それがなぜ¨合わせ鏡¨で精神のみを異空間に飛ばすことに繋がる!』
かつて幾度となく行われた試練でも、こんな形式のものはなかった。
第一と第二の試練も、そういえば少なからず今までとは違っていたかもしれない。
そもそも¨合わせ鏡¨は罪人を永久に幽閉するための¨永久の迷宮¨の入り口を開くためのものだ。
すでに¨合わせ鏡¨は解かれ、鏡は一枚しかない。
『マスターからのご指示です』
『マスター?…カリヤのことか。何を企んでやがる!』
『存じません。私はあくまでマスターの命令により、試練の内容を変更しただけです。
そして追記するならば、マスターにどのような思惑があろうと私はマスターのご指示に従うだけです』
くそ、こいつは昔から融通ってもんがきかねえ。
小僧の体には外傷もないし、脈拍もしっかりしている。
だが精神を体から長時間引き離してしまえば、最悪…
『くそが!野郎、何を考えてやがる…』
俺はカリヤの野郎が覗き込んできているであろう空間を睨みつけながら、この状況の整理を始めた。
6月15日(金)?時??分




