八拾五
6月15日(金)?時??分
「さて、んじゃそろそろ行くかな」
ほんの数秒前までは虚ろな目でぶつぶつ言っていた宮崎だったが、唐突に立ち上がってそう宣言した。
「え?もう大丈夫なの?てか宮崎君、続ける気?」
杉山の疑問に宮崎はふざけた笑みを返すと自分の¨鏡¨の前に立つ。
『第二の試練を開始しますか?』
「するする~(笑)んじゃ、ぎやま、いってくるね~」
そう言って宮崎は鏡と向かい合う。
「ぎやまはあんま深く考えすぎないほうがいいと思うよ~。現実だろうが夢だろうが割り切っちゃえば変わんないしにゃ~」
どこまでもふざけた様子で宮崎は鏡の前に立っている。
杉山の位置からでは宮崎の後頭部しか見えないが、なんとなく表情が分かる気がした。
「あ、守っててくれてありがとね~。ついでにこれ、預かっといて」
そう言って宮崎が投げてよこしたのはおかめの仮面。
「宮崎君、これって…!」
杉山はキャッチしたおかめの仮面が真っ黒に染まっているのを見て驚く。
(さっきまでは普通に薄い肌色だったのに…)
おかめの表情は相変わらずで、色だけがまるで墨を垂らしたように黒い。
「きっとおれの感情に連動してるのかもね~。なんでか知らんけど、さっきから昔のことばっかり思い出すし」
宮崎の背中は何も語らず、ただふざけた口調だけが杉山に向かって放たれる。
「これも試練なのかね~。だとしたら」
そこで仮面を外して初めて宮崎が振り向いた。
「…!」
宮崎の顔は冷たい怒りの表情で固まっていた。
「不愉快だ」
そう言って宮崎は鏡の中に消えていった。
杉山はずいぶんと前に、一度だけあれと同じ宮崎の表情をみたことがあるのを思い出した。
(あれは、阿部君の部屋で…)
それは三人がまだそれぞれの【神器】に出会う前、5月に入ったばかりの頃。
阿部の部屋のベットで寝てしまった宮崎が起きたときにしていた表情だ。
同時に思い出す。
(「神を堕とす者」ってなんだ?)
自らが呟いたはずの言葉に、杉山はかすかな頭痛とともに疑問を感じた。
何かが頭の中で暴れている。
前にも感じたその感覚は、数倍の痛みとなって杉山の頭に刺激を与えた。
(何か、思い出しそう?)
クマの仮面をつけた相手と闘ったときのように一瞬でいくつものイメージが杉山の頭に溢れてくる。
だがそれは溢れたときと同様にすぐに霧散してしまう。
杉山はただ多節棍を出して何かを思い出せるか試し始めた。
6月15日(金)?時??分
『第二の試練。汝過去の宿敵と再び合間見えよ』
宮崎の周りには複数の人影。
その数は阿部の倍以上である。
『第二の試練では、これまでに討ち果たしてきた対戦者と再び闘っていただき、そして残らず倒していただきます。
なお「ねえ」…』
【シュールバルタの鏡】の説明を宮崎は遮った。
「細かい説明はいいよ。とりあえず全員倒せばいいんでしょ?じゃあすぐ始めてよ」
『…それでは第二の試練を始めます(ザシュ!)』
開始の宣言が終わると同時に宮崎の近くの生徒の首が舞う。
一気に三人の命が刈り取られた直後、少し離れた位置にいた二人の生徒の心臓に短剣とナイフが貫通した。
「とりあえず一斉にかかってきてよ。弱いやつは先に片付けといたから」
獰猛な笑みを浮かべながらそう言った。
宮崎は記憶力というものが他の人に比べてあまりよくない。
それは興味のないものは覚える気すらしないためである。
逆に言えば興味のある事柄に関して言えばとんでもない記憶力を発揮する。
宮崎は自分を囲む生徒が過去に倒してきた相手だとは気づいていない。
だが無意識にか、生き残っている生徒は全員宮崎が少しは楽しめたと思える生徒ばかりである。
宮崎は仮面で隠れていない素顔の凶悪な笑顔のまま言葉を発する。
「少しは楽しませてくれるんだろう?」
その瞬間、宮崎の周囲にはいくつもの武器が出現する。
手近な剣を地面から引き抜いて、宮崎の姿は消えた。
そして瞬きの差で刀を構えた生徒の懐に現れる。
ズバッ!
宮崎はこの状況を楽しみ始めていた。
6月15日(金)?時??分




