八拾
6月15日(金)?時??分
〔壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ…〕
宮崎は果てしなく暗い海を漂っていた。
上も下も、
右も左も、
前も後ろも、
そもそも己の体すらない
ただ上下左右、前後の感覚すらない空間を漂い続ける。
ただ一方的な破壊衝動のみがこの空間を満たしている。
しかし宮崎の¨意識¨という存在は別のことを考えていた。
嫌な思い出は全て¨なかったこと¨にし
楽しかった思い出のみを再生する。
意識の中には破壊の限りを尽くす、元は自分だった存在の見た映像も映し出されている。
だがそんなものは片隅に追いやり、過ぎ去った過去のみを回想する。
(……、……。)
しかし楽しかった思い出などほとんどない。
思い出したくもない記憶ばかりが宮崎を責め立てる。
数少ない幸福な思い出の中を延々とループし続け、しかしそれも次第に朧気なものに変わっていく。
ついには辛く暗い思い出が幸福な思い出を浸蝕し始める。
虚ろな感情に支配される前に、宮崎は¨もう一人の自分¨に意識を向けた。
それはちょうど、異形な姿となって世界を破壊し続ける¨自分¨の頭に、空から降ってきた少女の頭が激突した瞬間だった。
6月15日(金)?時??分
『第一の試練、クリアです。』
¨シュールバルタの鏡¨が宮崎の目の前に現れ、第一の試練突破を宣言する。
しかし宮崎は鏡には目もくれず、街の残った建物を破壊していく。
すでに街を覆い尽くしていた存在は残らず灰と化している。
「全て壊れてしまえ!跡形もなく消え去ってしまえ!」
そう叫ぶのは宮崎がつけていたおかめの仮面と一体化した人の頭。
そしてもう一つは破壊の限りを尽くす、絶え間なく炎を吐き出す歪なドラゴンの頭。
二つの頭をもつ竜には翼が四つ。
背中から生えた黒々とした鴉の翼。
そしてコウモリのように薄く張られた皮膚の翼。
両腕は翼となっているため休むことなく羽ばたき、双頭の頭はそれぞれ混沌を撒き散らす。
もはや異形、化け物と言う他ない存在となった宮崎は、自らの存在すらも¨欠片¨に変換し、さらなる破壊を巻き起こそうとしていた。
だがそれは長くは続くことはなかった。
突然空に鏡が現れ、違う空間と繋がった。
鏡から出てきた、いや入ってきたのは小柄な少女。
正確には投げ込まれてきた。
少女は状況を理解するよりも早くに、歪な竜のおかめの仮面と同化した方の頭に激突した。
「うきゅっ!?」「ふごっ!」
6月15日(金)?時??分
「…このまま自滅するのは惜しい。…デュラン、そいつを正気に戻せ」
それだけ言葉を伝えると、空気に溶けるように鏡は消滅した。
「いてて…。こらー、カリヤ!!痛いじゃん!いきなりなにすんだよ!!」
デュランはそう空に向かって叫ぶが、すでに通ってきた鏡はない。
「もー!マジでムカつくな!…ん?そういやここどこ?」
デュランが立っているのは瓦礫となった街並みの中だ。
「「あ゛あ゛あ゛!!」」
その時、双頭揃って怒りを露わに歪な竜が地面に着地した。
「うわ、キモッ!」
デュランは奇っ怪な竜の姿を見て顔をしかめ、先ほど聞こえたカリヤの言葉を思い出す。
「ええっと、これもしかして人間!?マジかよ…。こんなんどうやって正気に戻せって言うんだよ?」
竜らしき生物は大きく息を吸って、炎を吐き出そうとしている。
「しかたないなぁ~」
そう言うとデュランは手を振ってロングソードを出現させる。
少女が扱うには大きすぎるその大剣を、デュランは軽々と振るった。
「「…あ゛あ゛?」」
一瞬で竜の四つの翼と両脚を切り落としたデュランは、呆然と地面に這いつくばる竜の頭を柄で殴って気絶させる。
すると竜は満身創痍な男子生徒(宮崎)に変わる。
それを無造作に掴み上げると、離れた位置にある¨シュールバルタの鏡¨に向かって放り投げた。
「いっちょあがり!さて、とっとと戻ってお菓子食べよう!」
デュランは宮崎が鏡を通り抜けるのを確認すると踵を返した。
そしていつの間にか現れていた鏡をくぐり抜けていった。
宮崎常春、第一の試練突破
6月15日(金)?時??分




