七拾九
6月15日(金)?時??分
「舞霞すごいな!堕天使を一発とか」
オレが興奮してそう言うと、舞霞の恥じらう感情が伝わってきた。
「そんな、大したことじゃないよ。裕ちゃんならすぐできるようになるだろうし」
そう言いながら舞霞はオレの体から出ていった。
形容し難い、何とも言えない感覚が背筋を駆け巡る。
『よし、これで第一の試練はクリアだね!もう鏡をくぐれ…!?』
そこで舞霞から驚いたような気配が伝わってきた。
もう体に入っていないが、同時にオレの背中も寒気が走り抜ける。
『裕ちゃん!!』
硬直してしまったオレを救ったのは舞霞だった。
持ったままだった多節棍が勝手に分解され、堕天使を潰したのとは逆の錘が弾けたように飛び出す。
一瞬で体に巻き付いた鎖は、意思を持ってオレを教会の屋根まで投げ飛ばした。
「…!?」
背中を強く打ち付けたオレが転がりながら下を見ると、とんでもない光景が目に入った。
「──────」
先ほどまでオレが足場にしていた巨大な錘が持ち上がり、逆に地面はさっきよりも陥没している。
錘の下にいるのは先ほど舞霞が潰したはずの堕天使だ!
堕天使は人間の聞き取れる音域から外れた叫声を上げている。
「嘘でしょ…。舞霞が倒したはずなのに…」
とんでもない力が働いているのか、オレの目の前で巨大だった錘はいっきにその質量を減らした。
ギュン
軽トラくらいあった錘は、まるで握り潰されたようにサッカーボールほどの大きさまで小さくなる。
『ぐっ…うぅ…』
そこでかすかに舞霞の苦しげな声が届いた。
あの錘も舞霞と鎖で繋がっているため、もろに痛みが伝わっているようだ。
考えてみれば舞霞の本体はあの多節棍だし、一部とはいえ潰されたら痛みもあるはずだ。
「舞霞!!」
堕天使から数メートル離れた位置に鎖が伸びた状態で多節棍が落ちている。
堕天使が一歩前進するか、重力の範囲を広げたら舞霞が押し潰されてしまう。
オレは屋根から飛び降りて多節棍を握り締める。
『裕、ちゃん…』
痛みに耐えるような舞霞の声を聞いて、オレはキレた。
「!!!」
全力でオレの¨欠片¨を多節棍に流し込む。
感覚はさっきの舞霞の一撃で覚えた。
「はああぁぁぁぁあ!!」
圧縮されていた錘がまたさらに巨大化し、先ほど以上の大きさとなって再び堕天使を押し潰す。
「ああぁぁぁぁぁあぁあ!!」
それでもオレは¨欠片¨を緩めることなく、さらに巨大化させていく。
すでに錘は一軒家ほどの大きさにまで膨れ上がり、教会の壁にめり込んでいる。
「あ゛あ゛あ゛ー!!!!!」
あまりに急激に¨欠片¨を使ったことで、毛細血管が破裂する。
真っ赤な鉄の棒を握ったように多節棍を持つ両手が熱い。
だがそんなことも気にならないほどにキレていた。
「Hey you…!」
全力を越えて錘を鎖で持ち上げる。
鎖まで巨大化し、握っている棍の動きに合わせて錘をさらに高く打ち上げる。
「What the hell are you doing to her !?」
鎖の限界まで上がった錘は、おそらく百メートルを越えた位置まで上がっている。
それを死ぬ気で地面に叩きつけた。
「Kill you!」
まるで隕石のように堕天使に直撃した錘は、オレを含む、辺り一帯を吹き飛ばした。
6月15日(金)?時??分
『第一の試練、クリアです。』
目を覚ますと、目の前には鏡があった。
どうやら吹き飛ばされて気絶していたらしい。
起き上がろうとして、舞霞をしっかりと抱きしめているのに気がついた。
「……。」
オレは若干靄のかかった頭で鏡に向かって一歩踏み出した。
杉山裕紀、第一の試練突破
6月15日(金)?時??分




