七拾三
6月15日(金)?時??分
いくら道を曲がって逃げても、あいつ、堕天使はお構いなしに建物を破壊して迫ってくる。
逃げ回ってすでに数十分が経過した。
現実のオレじゃありえない体力だ。
でもそろそろ限界が近づいてきている。
息は上がって体も自分のものとは思えないほど疲弊してきた。
宮崎君と違って、オレはインドア派だし。
まあ本人に言ったら「おれもインドア派だ~」とか言いそうだけど。
てかなんで第一の試練からこんなボス級のやつと闘わないといけないんだよ!
まさか第二の試練からはもっと難易度が上がるとか?
だとしたらリタイアしたい…
『裕ちゃん右!』
「!」
舞霞の一言で右に跳ぶ。
途端にオレがさっきまでいた空間が押し潰されいく。
開始から10分くらい経過したあたりから堕天使は今みたいに重力を圧縮した球体のようなものを放ってくるようになった。
空間が歪められているのか、重力の塊は吸い込まれるような漆黒の弾丸となって迫ってくる。
『左!』「!」
避けた途端そこにあった電柱が跡形もなく押し潰される。
阿部君と宮崎君の三人でよく携帯小説を書いていたが、
あの堕天使が使ってくる重力の弾丸はオレが書いている小説に出てくる能力にそっくりだ。
だとしたら対抗策くらいあるだろうって?
いやいや
小説と現実は違うって。
あんなの実際くらったら対抗策云々以前に瞬殺だよ。
なまじ小説に書いているだけに応用の幅の広さまで想像できてしまう。
正直リタイアしたい。
いやでも今回からリタイアできないんだっけ…
これまでの闘いはほんと自分が自分じゃなくなったんじゃないかってくらいはっちゃけていた。
所詮夢だし、ゲームだしと言っていられたけど。
でもこの前宮崎君を仮にとは言え殺してしまった。
感触こそなかったけど、目の前であんな死に方をされたら酔いも醒めるというもんだ。
あれ以来どこかこの闘いが薄っぺらいもののように感じてしまっている。
ピンチになればすぐにでもリタイアしてしまおうと考えていた。
しかし今回のあの男の宣言により、リタイアがなくなってしまった。
迷っているうちにチャンスを逃してしまった。
オレはいったいどうこの闘いを続けていくんだろう?
『…ちゃん…裕ちゃん!』
「……え?」
舞霞の呼ぶ声にオレはやっと現実に目を向けることができた。
振り向くとすぐ後ろには顔のない堕天使。
陥没したアスファルトの数十センチ上に浮いてこちらに手の平を向けている。
今まさにそこを中心に漆黒の球体が生成されていく。
目の前には高い壁。
左右には押し潰されて原形を留めていないガラクタ。
オレは完全に追い込まれていた。
左右に障害物がないため鎖の支点に利用できない。
正面の堕天使には鎌や錘を投げつけても強力な重力の壁のせいで下に向かって落ちてしまう。
街中を破壊し尽くしながら進んでいた堕天使のせいで、本来のオレのスタイルが封じられていた。
逃げるうちにまんまと行き止まりに入り込んでしまった。
いつもならここで壁の上に鎖鎌を投げて引っかけ、長さを調整して壁を越えて逃げようとしただろう。
でもなんとなく逃げるのに疲れてしまった。
もうずいぶん走ったし、オレにしては十分頑張ったと思う。
もうここでやられたって…
『裕ちゃん!!』「!」
突然頭の中がクリアになったようだった。
何故か舞霞の声がまたオレにやる気を起こさせた。
オレは鎌を壁の上に投げて固定し、一気に突き上がる。
それと同時に重力の弾丸がオレのいた所を通過して壁を押し潰す。
完全に押し潰される前にオレは壁を乗り越えていた。
6月15日(金)?時??分




