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七拾一

6月15日(金)?時??分


杉山はひたすら前へ前へと走っていた。


後方数十メートルには巨大な影。


「はぁはぁ…あ、ありえなでしょ…shitクソッ…あんなのどうやって…」


走る杉山を追うのは背中から漆黒の翼を複数生やした、まさに堕天使とも言うべき存在だった。


堕天使はゆっくりと、だが確実に杉山との距離を縮めていく。


堕天使の通った後には塵ひとつ残らないほどの絶対的力で空間が押し潰されている。


「…何で…第一の…試練から…ボス戦なん…だよ!」


鏡が第一の試練として¨うつした¨のは¨堕天使¨。


それは杉山の無意識下に存在する過去のイメージから生み出されたもの。


つまり杉山はかつて堕天使、もしくはそれに近い存在と遭遇したことがあるということを示していたのだが、この場には杉山を含め誰一人として真相を知る者はいなかった。


堕天使の顔面は削られたように陥没していた。


6月15日(金)?時??分


「いっやああぁぁぁぁあぁああ!!!!!」


無人の街に悲鳴が響き渡る。


声の主は町外れにある電波塔の最上部のアンテナの上にしがみついている青年である。


青年、宮崎常春はアンテナの足場を蹴って振動を与えては迫り来る¨あれ¨の侵蝕を防いでいた。


「いやいやいやいやいやいや~!!!」


ガンガンガンガン!!


街を覆い隠さんばかりに増殖する¨あれ¨


宮崎がもっと恐れている¨あれ¨が足元にまで大挙して迫っている。


宮崎は今にも狂いそうだ。


外国人はどうだか知らないが、おそらく日本の¨それ¨が出現する地域で¨そいつ¨が好きだと言う人はほぼいないだろう。


人々は¨それ¨を畏れを込めて「G」、「ジョニーさん」、「黒い悪魔」などと呼ぶ。


¨ゴキブリ¨


一匹で一つの家庭を恐怖のどん底に突き落とすその存在が、もはや無限に増殖し世界を侵蝕しつつあった。


6月15日(金)?時??分


阿部は廃工場に身を潜めて、息を殺して今の状況に耐えていた。


もはや街は¨バイ◯ハザード¨さながらのゴーストタウンだ。


いるのは徘徊するゾンビのみ。


この状況はおそらく¨バイ◯ハザード¨のゲームも関係しているかもしれない。


ゴースト系のゲームと¨バイ◯ハザード¨が合わさればまさにこんな感じになるだろう。


唯一違う点があるとすれば、ゾンビを倒すための銃火器がないうえに、ゴーストに効果のある呪具など存在しないというところだろう。


「どうすんだよ、これ」


阿部は効果的な解決策を思いつけないまま、廃工場の事務所にあたる部屋で外を窺い続けることしかできなかった。


6月15日(金)?時??分


街を写す鏡の中


カリヤは無人になった広場の上空で、別の空間に跳んだ生徒達の様子を眺めていた。


ここは鏡の中に存在する鏡の中に存在する鏡である。


¨シュールバルタの鏡¨は本来三面鏡であり、¨合わせ鏡¨の形にすることで内側に無限に空間を作り出すことができる。


かつてその性質を利用して罪人を鏡の中に封じ込めたこともある。


鏡の世界は終わることのない¨永久の迷宮¨であるため、罪人がその後どうなったかを知る術はない。


¨永久の迷宮¨の入り口は¨合わせ鏡¨にしない限り開くことはないが、一度開けば¨合わせ鏡¨を解く以外に閉じる方法はない。


¨シュールバルタの鏡¨はその性質を組み合わせることで多岐に渡る使用方法があるが、本来の性質は¨試練を与える¨ことである。


カリヤはまず生徒全員をオリジナルの¨シュールバルタの鏡¨の中に¨移した¨。


¨シュールバルタの鏡¨オリジナルは現実の三面鏡であるが、内部ではコピーを限りなく¨写す¨ことができる。


ただしオリジナルは¨写す¨ことはできない。


そしてその中に世界が構築され、そこで改めて生徒一人一人をコピーの¨シュールバルタの鏡¨の中に入れ、試練を開始させた。


鏡の中で幾重にも重なった鏡はほぼ平行世界と言っても過言ではない。


5つの試練をクリアし、オリジナルの中の鏡から出てくることができれば四回戦は突破となる。


カリヤは全ての鏡の様子を眺めながら呟いた。


「…¨シュールバルタの鏡¨は¨試練を与える¨という性質上、体験者の実力をフルに出させる。…いったいどれだけの者が¨覚醒¨し、目覚める足掛かりを…」


ちなみにカリヤの傍らには小さな¨シュールバルタの鏡¨があり、中では少女がヌルヌルの触手から逃げ回っていた。


6月15日(金)?時??分

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