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六拾九

6月15日(金)?時??分


『第一の試練開始します』


鏡を抜けると、そこはさっきの空間と同じように何もない世界だった。


ここもさっき同様にじわじわと世界が構成されていく。


俺は鏡と向かい合うと


「ちょ、ちょっと待って!」


とりあえず待ってもらうことにした。


『なんでしょうか?』


鏡は通り抜けたときと変わない位置に立っている。


改めて観察してみると、鏡はとても精密な装飾のなされた年代物の姿見だ。


後ろに回ってみても普通に裏面になっているだけで、誰もいない。


『要件をお答え下さい』


なのに女性の声が聞こえてくる。


落ち着いた雰囲気の穏やかな声だ。


思わず聞き入ってしまいそうになるが、気を取り直して鬼丸に聞いてみる。


「鬼丸、この鏡って何なの?」


迂闊にも鏡を通ってしまったが、その前にするべき質問だった。


『こいつは【シュールバルタの鏡】という【神器】だ』


「え?これも【神器】なの?」


てっきり【神器】は全て武器の形をしているものだと思っていたけど…


これも実は武器で太陽光を反射してレーザーに…?


『かつてシュールバルタという¨神器創成者¨に創り出された鏡。…今回のは今までとはだいぶ異なった闘いになるだろうよ』


「それってどうい…」

『要件をお答え下さい』


俺の言葉を遮ってシュールバルタの鏡が機械的に答える。


『…こいつには俺達と違って感情はねえ。応答はするし反応もするが、機械みたいに融通のきかないところがある。三回繰り返しても返事がなければ質問をすっ飛ばされるぞ』


「え、そうなの?じゃあ、えっと…【シュールバルタの鏡】…さん?」


『さんはねえだろ、さんは』


気を取り直して質問してみた。


「第一試練って言ってたけど、試練はいくつあるんですか?」


なんとなく声の調子から敬語になってしまった。


『試練は第一から第五まで5つあります。』


「具体的にはどんなことをするんですか?」


『それは試練を始める前後に説明いたします。まずは試練の開始を宣言してもよろしいですか?』


「えっと…はい」


俺が答えるやいなや鏡が一瞬揺らいだように見えた。


鏡は俺の全身を映したまま説明を開始する。


『第一の試練。汝の畏れる者を克服せよ』


その言葉が終わると同時に鏡面から何か得体の知れないものが滲み出てきた。


半透明で存在感の薄い、見ていて不安になるような存在だ。


『第一の試練の説明を開始いたしますが、よろしいですか?』


「は、はい」


鏡の方を見ようと思っても、目の前にいるこの正体不明のものが気になってしょうがない。


何故か鳥肌と怖気と悪寒が止まらない。


『第一の試練では、あなたが無意識下で恐れているもの、例えばトラウマなどを具現化し、それを克服してもらいます』


『一度この鏡に姿を¨映した¨だろ?この鏡は¨映った¨ものの存在を¨写し¨て¨移す¨ことができる』


鏡の説明に鬼丸が補足してくれた。


いや、ちょっと待て。混乱してきた。


『¨映され¨た対象を¨写し¨たこいつは、¨写され¨た対象を¨映す¨ことで自由に外に¨移す¨ことができるようになる』


「ストップストップ!全然意味分かんないよ!もっと分かりやすく頼むよ」


鬼丸は舌打ちしつつも説明してくれた。


『¨映す¨、つまりこの鏡は映った対象をコピーすることができる。お前はそのコピーにこの中に引きずり込まれたな?』


確かに鏡に映った俺自身に引き込まれた。


『それで¨写す¨ってのはコピーされた対象の中身、記憶や経験だな、をこの世界に写す、つまり反映させるってことだ』


えっと、つまりここは鏡の中で、俺のことを¨映した¨鏡にここに¨移された¨ってことか。


それでここの中では俺のことを¨写す¨ことで世界が変化している?


やっぱりなんか頭がこんがらがってきた。


『あなた自身を¨映した¨ことで、この世界にはあなた自身が¨写され¨ました。¨写され¨たあなたはこちらに¨移され¨、¨写され¨たあなたの脳の中から¨写し¨出されたものをここに¨映し¨出したのです』


…もういいです。


進めて下さい。


『それではあなたから¨写し¨出されたこの存在を克服して下さい。制限時間はございません。克服した時点で第一の試練は終了いたします』




こうして第一の試練は始まったわけだが、正直頭の処理が追いつかない状況だ。


とりあえず俺はこの目の前にいる正体不明な物体を倒せばいいのか?


6月15日(金)?時??分

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