六
突然だが、君は今朝見た夢をはっきりと思い出すことができるだろうか。
漠然とは覚えている。だが時間が経つと霞のようにぼやけていって、実体が掴めなくなる。
大概の人がそうであるように、目を覚ました稲穂学園の生徒達は皆同様にこの夢で見たことを忘れていった。
起きたばかりのときは危機感のようなものを感じていた生徒も、所詮は夢での出来事。そう長続きしなかった。
5月11日6時10分
「……ん」
時計のアラームが鳴る前に起きてしまった。いつもは半くらいまでは寝ているのだが、この日は何故か早く目が覚めた。
「……ッ!?」
そこでやっと頭がはっきりした。夢で見たことを思い出す。俺は急いで机の上に広げてあるノートに夢の内容を思い出せるかぎり書き込んでいく。
頭の中から急速に抜け落ちていく感覚に焦りながら、どうにか大まかなことをメモすることに成功する。
「何だったんだ、あれ…。」
昨日、いや今朝見た夢の内容は、ここ1ヶ月続いていた夢とは違った。
「ゲーム?3日って…。何だったんだ…。」
頭がはっきりしてから、段々思い出せなくなってきた。スピーカーから聞こえた声が、男性だったか女性だったかも定かでなくなってきた。
5月11日7時15分
「…とりあえずあいつらに聞いてみるか。」
もやもやとしながら朝食を食べると、制服を着る。課題や忘れ物がないか確認すると家を出た。
5月11日8時05分
いつもより早めに教室に入る。教室には数名の女子がいる。男子は今のところ一人もいない。しばらく待っていると一人教室に入ってきた。
5月11日8時15分
「つねっ!」
俺は教室に入ってきた生徒、宮崎常春に話しかけた。
「おはよ。」
つねは机にカバンを置くと教室を出ていこうとする。
「ちょ、つね待って!」
「その前に手洗いとうがいを。習慣は守るべきだからな。」
そう言って行ってしまう。どこまでもマイペースなやつだと思う。
するとぞくぞくと男子が集まってきた。
5月11日8時20分