六拾八
《【神器:シュールバルタの鏡】
別名:試練の鏡
かつてシュールバルタ自身の手で創り出された【神器】。力を求める者に試練を与えるべく、カルヴァリンからの命によりこの¨鏡¨は創り出された。この¨鏡¨の機能は多岐に渡り、多くの能力を宿している。最大の特徴は¨試練を与える¨ことであり、畏れる者、過去の宿敵、恐怖する者、愛する者、相対する者をその身を映した対象の前に創り出すことである。》
6月15日(金)0時00分
俺は、いや、俺達はみんな何もない空間に集められていた。
前回のカリヤの言葉が本当ならば全体で108人。
それが見渡す限り地平の彼方まで何もない真っ白な世界にまとまって整列している。
見ると空までが白い。
地平線が辛うじて分かる程度だ。
周りでは一様に辺りを見渡たり、他の生徒の様子を窺っている。
あ、一つ訂正があったようだ。
先ほど¨見渡す限り地平の彼方まで何もない真っ白な世界¨と表現したが、少しして地面から凹凸が現れ始めた。
空も青く染み渡っていき、太陽が姿を現す。
凹凸は瞬く間に街並みを構成し、俺達が整列していた場所は広い空き地になった。
そしてどこからともなくスピーカーを通して声が響きわたった。
【…欠場者はいないようだな。…リタイアを申し出る者はいるか?】
広場に響く声はいつものように平淡で無感動だ。
【…四回戦よりリタイアは認められなくなる。…闘う意志のない者は今すぐ前にでろ。…これからの闘いはゲーム感覚では乗り越えられない】
カリヤのこのセリフを聞いてにわかに辺りが騒がしくなった。
明らかに今までとはノリが違う。空気が重過ぎる。
戸惑う俺達に追い打ちをかけるように声は響きわたった。
【…四回戦は生徒同士の闘いは行われない。…もちろん闘いたければ止めはしない。…そんな余裕はないだろうしな】
淡々と紡がれる言葉の羅列は俺達から声を失わせた。
これじゃリタイアを宣言しようにも体が言うことを聞いてくれない。
俺達全員はこの場に姿を現してもいないカリヤによって射竦められていた。
(まずいまずいまずいまずい!なんだこの状況?これまでの雰囲気とは違いすぎるって!)
鬼丸を含め他の【神器】も全く反応していないようだ。
【…リタイアを宣言する者はいないか?…ならばこれで締め切りだ。…これより四回戦を開始する】
開始が宣言されてしまった。
もとよりリタイアするつもりは微塵もなかったが、こうした空気では取り返しのつかない選択をしたような気になる。
他の生徒も同じ様子で、仮面に隠された表情は恐らく俺と似たり寄ったりだろう。
【…《汝が試練、等しくこの者達に与えよ。その姿なき実体に虚像を結び、形ある試練を…》】
「「「「……!?」」」」
突然生徒全員の影から等身大の姿見が現れた。
鏡には俺の全身が映っていて、不思議なことに背景には他の誰もいないばかりか風景すらない。
突然鏡に映った俺がこちらに手を伸ばしてきたかと思うと、鏡の境界を越えて俺の両手を掴んできた。
「……え?」
あまりに現実離れした現象に頭の処理が追いつかない。
俺の体は抵抗する間もなく鏡の中に引き込まれてしまった。
6月15日(金)?時??分
生徒が集められた広場の上空。
その何もない空間にカリヤは立っていた。
まるでワイヤーで吊されているように見えるが、そんなものは存在しない。
眼下では次々と生徒達が鏡の中に引き込まれていく。
カリヤは巨大な円形の鏡を出現させると、世界全体をそれに反射させる。
すると鏡には眼下の状況を映し始める。
そこには鏡に引き込まれた生徒達の姿が映っていた。
6月15日(金)?時??分
鏡に引き込まれたと思ったら、気がつくとさっきと変わらずに広場に立っていた。
『第一の試練』
突然鏡の中から声が発せられた。
『鏡を通り抜けて下さい』
見ると鏡にはこことは別の風景が写っている。
『鏡を通り抜けて下さい』
同じ言葉を繰り返される。
俺はおずおずと鏡に向かって足を踏み出した。
6月15日(金)?時??分




