六拾五
6月8日(金)19時06分
「何度やっても慣れないよね。あっちで30分修行してもこっちじゃ1分も経ってないなんて」
¨同時に起きた¨ぎやまは開口一番にそう言ってきた。
あちらで数分早く起きたぎやまも、現実に戻ってくるときの誤差は0.1秒もない。
確かにぎやまの言う通り、今でも違和感はある。
あれだけ長い時間をあちらで過ごしたのに、こっちではほんの一瞬。
最近では普通に生活しているのがもったいなく思えてくるほどだ。
「はっはっは。おれの読んだ本の中には通常の1000倍に引き延ばされた世界で闘う物語があったが、これはそれに近いものがあるな」
つねもぎやまに同意している。
先ほどのシリアスな雰囲気は微塵も感じない。
入学当時から変わってはいたが、最近ますます変態、いや変になってきたような気がする。
ともあれ
「とりあえず5分休憩したらまた始めようか」
5分もあれば¨欠片¨を回復するのに充分だ。
この5分の間にトイレを済ませておくとしよう。
まぁ念のため。
6月8日(金)29′56″00
目を開くと目の前には見知らぬ校舎が建っていた。
「あ、今回はオレのステージみたいだね。ここ、前の学校だ」
前にも記したが、ぎやまは一年の夏に転校(あれ、編入だっけ?)してきた。
高校名は[北山国際高校]とある。
「正面から宮崎君とか阿部君に向かっていってもあんま勝ち目ないかもだし」
そう言いながらぎやまは舞霞と鎖鎌を出現させて構えた。
「いきなり新技披露しちゃうわ!」
両手が薄く光り出したかと思うと、それが【神器】を伝い全体が発光し始める。
「いくよ、舞霞」
『うん、ゆーちゃん』
なにが始まるんだ?
眺めていると、突然多節棍の端と鎖鎌の柄の先端が磁石のようにくっついた。
二つはまるで最初からそうであったかのように一つの武器に変化する。
ぎやまは二つに増えた鎖鎌を両手に持ち、鎖で繋がった棍を垂らした。
「¨ ¨」
かすかにぎやまが何か呟いたようだ。
するといきなりぎやまの腕の間で、垂れていた多節棍が四方八方にむかって生きているかのごとく広がっていった。
「うお?」「な、何だ!?」
鎖と棍は先端についた錘によってその先にあった木や突起部に固定される。
一瞬でまるで巨大なクモの巣に周りを囲まれたようになる俺とつね。
鎖は不規則に分岐し、枝分かれしてはその先で分岐する。
十秒も待たずにまるで超巨大な繭に包まれたような状況に陥ってしまった。
これでは移動がだいぶ制限されてしまう。
俺の持ち味であるスピードと俊敏性が殺されてしまった!
「ふう…。どうよ阿部君、宮崎君!¨蜘蛛の抱擁¨って技なんだけど、これってよくない?」
ぎやまがどや顔をしながらそう言ってくるが、正直俺は驚きが大きくて何も言えない。
この技のクオリティもそうだが、ぎやまはあまりにも実力が違い過ぎる。
もちろん戦闘力では俺のほうが上だろうが、【神器】の扱いはもはや最高レベルなんじゃないか?
ここに来るまで俺もそこそこ修羅場をくぐり抜けてきたつもりだったけど、ぎやまのこれはもはや天才的だ。
1対1じゃ勝てないかもしれない。
正面から闘って勝ち目がないのは俺のほうだ。
「あれ、宮崎君は?」
「え?」
横を見てみると、ついさっきまでつねが立っていた所には多節棍以外の何もない。
慌てて辺りを見渡すが影も形も見当たらない。
「お~い、宮崎く…」
ぎやまが叫ぼうとした次の瞬間
「呼ばれて飛び出て~じゃじゃじゃ…くしゅっ!」
「「…!!」」
いきなり声がしたかと思うと、上からつねが降ってきた。
そしてそのままぎやまの背後に着地して、鼻水を垂らしたまま素早くトンファーを構える。
「はっはっは!ぎやまよ、この技は室内ならともかく、天井も何もないところじゃ意味ないぜぃww」
しまらないな…
だがなんとなくピンときた。
つまりあの数秒でつねは多節棍の動きを推測し、密集度の低い上に逃げたってことか?
それにしてもどうやってあの高さまで…
「多節棍とか鎖を利用できるのはぎやまだけじゃないんだから、あんま頑丈に固定し過ぎないほうがいいと思うよww」
そうか!
つねは鎖が固定された所を足場に利用して、段々と高く登っていったのか。
それでそのままぎやまの真上に移動して不意をついたと。
ぎやまとは別の意味で化け物じみてるな…
「…宮崎君、甘いよ」
だが背後を取られたはずのぎやまは何故か余裕な表情だ。
そして次の瞬間にその理由が明らかになった。
「舞い乱れろ、霞霞!!」
ぎやまがそう言った途端に俺達の周りの鎖で繋がった多節棍から無数の刃が飛び出した。
「「……!!」」
いきなりすぎて避けられずズタズタになる俺とつね。
「一つになった舞霞と鎖鎌は変幻自在だよ」
その言葉を最後まで聞くことなく、俺達は地面に膝をついた。
6月8日(金)28′12″11




