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六拾二

6月8日(金)28′58″05


ちなみに俺達の¨欠片¨の総量を合わせても約30分しかこの空間を維持することができない。


保たそうと思えば一時間近くキープすることができるが、目覚めたときに異常なほど疲れてしまうからだ。


なので修行は30分ごとに区分けして現実を往復することで行う。


そして負けた人は罰ゲームが待っている。




開始早々俺は森の中を走っていた。


どの方向から攻撃がくるのか分からない以上、無闇に動き回っても体力の無駄になる。


しかしつねと1対1では何をしてくるか分からないし、ぎやまの【神器】の多様性は止まっているほうが危険だ。


開始を宣言した直後、ぎやまは「オレは様子見させてもらうわ」と言って姿を消した。


鎖を利用して高さ20メートルほどの木の枝に上がり、そのまま見えなくなる。


一方つねはぎやまに気を取られている俺の目の前で


「ふおぉぉ!¨羅漢突掌¨!!」


そんな技名を叫びながら直結1メートル近い大木にトンファーをぶち込んだ。


凄まじい衝撃とともに木の根元は大きく抉られ、俺の方に倒れてきた。


「うわ、ちょ!¨天地夢双¨!」


俺はとっさにその大木を´正面から両断`し、急いでつねのいた方を見たがもうそこにはつねの姿はなかった。


そんなわけで、俺は姿を消した二人を探しながら、同時に逃げている。




『あいつらも相当鍛えてきたらしいな。トンファーの小僧の破壊力も凄まじいが、あの鎖を操る小僧もなかなか侮れん』


「俺てきにはぎやまのが厄介かな。つねは近接戦闘型だけど、ぎやまはどこから攻撃が来るか分からないし」


『確かにあれは面倒だ。離れた位置からこられたら防戦一方…小僧!』


「え?…うわっ!?」


鬼丸に呼ばれて、やっと俺は思いの外近い足音に気づいた。


地上を走ってきてるってことは…


「つねか!」

「アッタリー!」ビュン!


俺の呼びかけに間髪入れずに答えると、つねは右手に持っていたメルスを思いきり振り下ろしてきた。


俺はそれを無理に受けることはせず、大きく跳んでかわす。


ズザッ!


するとメルスは近くの木を深く抉り、抉り込んで止まった。


(なんて馬鹿力だよ!)


つねは木から抜こうとしたようだが、メルスはめり込んだまま動かない。


そしてそのチャンスを見逃すほど俺はお人好しじゃない。


空中で体勢を整えると、俺はメルスがめり込んだのとは別の木に足をつけ、つねに向かって跳ぶ。


つねはそれに気づくとメルスを惜しむことなく手放し、代わりに斬馬刀を出現させた。


ちょうどつねの姿を隠すように現れた斬馬刀に一瞬俺の反応が鈍る。


とっさに斬馬刀を鬼丸で横殴りに払うと、斬馬刀の陰ではつねが両手にグローブのようなものをはめて構えていた。


「せいや!」


突き出された右ストレートは、振り払ったことでがら空きになった俺の腹部に突き刺さる。


ズッ!「ぐはっ!」


まともに入った拳の威力で俺は後方に数メートル吹っ飛び、深い藪に突っ込む。


その先はちょっとした崖のようになっていて、その下には大きな川が流れていた。


結果的につねからの追撃は振り切ることはできたが、今度はそこそこ深さがあり、流れの急な川に飛び込んでしまった。


「ぐぼががぐぐがっ!(死ぬ死ぬ溺れっ!)」


必死にもがくことでどうにか空気を吸うことはできたが、流れはどんどん速くなる。


「お~い、阿部ちゃん!その先、さっき言った滝が…」


上流からつねの声が聞こえてきたが、正直溺れないようにするので必死だったためよく聞き取れなかった。


『小僧!この先は滝だそうだ!』


耳元で鬼丸の怒鳴り声が聞こえて、やっと今の状況が呑み込めた。


しかしそこで無残にも時間切れだったようで、俺の体は宙に投げ出されて滝壺に向かって落下していった。


6月8日(金)25′46″12


滝壺に向かって真っ逆様に落ちていく俺を助けたのはクモの巣状に張られた鎖だった。


「阿部君、大丈夫!?」


何が起こったのか混乱している俺の目の前にぎやまが姿を現した。


どうやらぎやまが助けてくれたらしい。


俺は未だに混乱している頭と息を落ち着かせようとした。


すると


「阿部ちゃ~~~ん!!」


滝の上から叫び声が聞こえたかと思うと、次の瞬間滝壺に向かってつねが飛び込んでいった。


一瞬すれ違う俺とつね。


そしてそのままつねは滝壺に消えていった…


6月8日(金)19′54″13

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