五拾八
5月29日(火)0時??分
闇に浸蝕されつつある巨城。二階通路。
城に侵入してから十数分。俺はとうとう少女を発見した。
幅のある大きな階段を上がり、左に曲がって少し進んだ先にある分岐点。
「やっぱりいたか…!」
城の中からでは外の¨闇¨に気づかなかったのかもしれない。
だから城の中に閉じ込められたのか…
しかし今は城の内部にも所々¨闇¨が浸蝕してきている。
驚くべきことに、少女はその身の丈よりも大きな剣で¨闇¨に抵抗していた。
少女は軽々と大剣を振り回し、周囲の¨闇¨の浸蝕を蹴散らしていく。
不思議とその大剣は淡く発光しており、¨闇¨はそれを畏れているのか少女に近づけない。
「これは来なくてもよかったか…」
明らかに少女の実力は熟達したものだし、どうやら¨闇¨に対する戸惑いはないようだ。
だが不意に俺は天井付近に集まる¨闇¨に気づいた。
天井は高く趣向を凝らした絵画が描かれているため、蠢く¨闇¨は見つけにくい。
¨闇¨は意思を持っているかのごとく少女の死角から襲いかかろうとしている。
俺はダッシュで少女との距離を縮めると、今まさに降りかかってきた¨闇¨に向かって走りながら両腕を前に突き出した。
そしてとあるイメージを頭の中で展開する。
「ふうぅぅぅぅっ!!」
額の前で両腕を交差させ、それを開きながら胸の前に伸ばす。
すると右腕と左腕の間にはかすかにだが激しい¨光¨が生じる。
「なっ…!?」
そこで少女は俺の存在に気づいたようだ。
こっちを見てかすかに目を大きく開けている。
俺は構わず¨光¨を¨闇¨に向かって放つイメージをする。
「であっ!!」
俺がイメージしているのはウルト◯マンテ◯ガのタイマーフラッシ◯だ。
¨光¨のイメージなんてそれくらいしか思いつかなかった。
何度も動画で見ているし、今では¨中の人¨が誰だか分かるようになったくらいだ。
鬼丸に言われて試しにやってみたときは、なんと一発で¨光¨を出すことに成功した。
イメージが鮮明であればあるほど強く確実に創り出すことができるそうだ。
¨光¨は一直線に¨闇¨に向かって飛んでいく。
これで俺もリアルウルト◯マンだ!
…ゴホン。
まぁともあれ、俺の放った¨光¨(タイマ◯フラッシュ)は空中で¨闇¨に直撃し、そのまま拡散する。
そしてカメラのフラッシュのごとく一瞬通路を明るく染めて、そのまま空気に解けていった。
その時俺のすぐそばで甲高いアニメ声が響いた。
「いきなり何すんじゃー!!」
ドガッ!!
「うぐっ!?」
問答無用に腹を殴られた。
(これってデジャヴ…)
体は通路の壁に深くめり込んで止まり、そこで俺の意識は途切れた。
5月29日(火)0時??分
闇に浸蝕された巨城。バルコニー。
「……カリヤ~!」
全体を真っ黒に浸蝕された城だったが、一点だけ¨闇¨に侵されていない所があった。
城の最上階付近にあるバルコニーだけは¨闇¨が意図的に排除されている。
そこではカリヤは水晶を眺めつつモンブランを愛でていた。
「…ふむ」
無表情な顔に満足げな雰囲気かもしつつモンブランをひとすくい口に運ぶ。
だが口に入る直前にバルコニーへの扉が勢いよく開かれた。
飛び込んできたのはしばらく前に城の最下層にまで落とした少女だった。
戻ってこれないように城中に¨闇¨を浸蝕させておいたのだが、どうやら無事だったようだ。
「や~っと戻ってこれた!!ひどいぜカリヤよぉ!ほんのちょっとおやつを食べたくらいで!ここまで戻ってくるの大変だったんだからな!」
「……。」
カリヤは不愉快そうに眉を顰める。
召喚した¨闇¨は暴走しないようにカリヤが制御して城の内側に留めていた。
¨闇¨を通じて城内の様子も把握している。
だからカリヤは少女が騒いでいてうるさいため、気絶させるために¨闇¨で攻撃した。
なのに目の前には少女がピンピンしている。
¨闇¨を通じて分かるのは¨闇¨の近くにいる大まかなものの気配のみ。
それなのに少女の不意をついた攻撃ができたカリヤはどれほどの実力か。
しかしカリヤも城に侵入した青年については把握してなかった。
外壁を¨闇¨で覆うまでに時間がかかったこと、そして¨闇¨を最上部から浸蝕させたことが原因だろう。
しかしさすがに危険だと分かっている城に誰かが残っている可能性までは気づかなかった。
「なあカリ…」
「邪魔するぜ」
「!!?」
少女とカリヤが入り口の方を見ると、そこには腰に日本刀を差した青年の姿があった。
5月29日(火)0時??分




