五拾七
5月29日(火)0時??分
遊園地の中心部。闇に浸蝕されつつある巨城。
正面の門から城に入り、城内を見て回り始めてからそろそろ10分ほど経つだろうか。
一階はまだ浸蝕されていないようで、西洋風の見事な造りの内装が厳かな雰囲気を創りだしている。
通路の端には所々甲冑が直立していて、まるで監視しているかのようにこちらを見下ろしている。
赤い絨毯の敷き詰められた床を蹴って進みながら、俺は違和感を感じていた。
『なあ、鬼丸。うちの学校にあんなに小さな子いたっけ?』
確かに稲穂学園には3000人近い生徒がいるため、卒業までに何の接点もできない人がほとんどだ。
中には顔を合わせるどころか一度もすれ違いすらもしない人もいるかもしれない。
だがそれでもあんな特徴的な子が目につかないはずがない。
横の繋がりの薄い稲穂学園内でも噂ぐらいにはなるんじゃないのか?
『…奴は参戦者じゃねえよ』
何故か鬼丸は重々しい雰囲気でそう言った。
『…やはり奴か…盲点だった…くそっ…カリヤばかりに目が行き過ぎていた…』
「鬼丸…?」
あの子が参戦者じゃないってどういうことだ?
それにいったい鬼丸はどうしたんだ?
あんなに反対していたのに、途中から無言になったかと思えばさっきみたいにぶつぶつ始まる。
『…小僧』
「なに?」
鬼丸は気の進まない様子で俺に話しかけてきた。
『…面倒事がいくつもあるが、とりあえず今は脇に置いておく』
「え?ああ、うん」
『まず今一番厄介なのはここを浸蝕しつつある¨闇¨だ。ここに来ちまった以上最悪の場合を想定して動け』
そう言って鬼丸は¨闇¨の対処法の説明を始めた。
『あの¨闇¨の対抗手段、というか弱点は何だと思う?』
「え?そりゃ…¨闇¨なんだし光かな?」
『そうだ。あれは日の光に弱い。他にも聖なる属性の物にも弱いな。』
聖なる属性って…。まるでドラ◯エみたいだな…
『聖水や銀なんかを¨闇¨は避けていく。だからそういったものを身につけておけばひとまずは安全だ』
「そんなもの都合よくもってないし…。てかこのフィールドに聖水とかあるの?」
俺の疑問に鬼丸はあっさり答える。
『ないな』
じゃあ意味ないじゃん…
『言っただろう、対抗手段だと。¨闇¨についてだいたい一通り教えてやる』
そう言って説明を再開する鬼丸。
『¨光¨に弱いとは言ったが、人工の光では¨闇¨に対して効果はあまりない。一番効果的なのは自然の太陽光だ…
『このフィールドにも擬似的とはいえ太陽があってよかったな。なければこんな狭いフィールド、数分で浸蝕されているだろう…
『心に響くような純粋かつ誠実な祈りや歌声は¨闇¨以外にも効くから覚えておけ…
『ところで何か強い¨光¨のイメージをもつものはあるか、小僧?』
五分ほど様々なことをレクチャーしてくれていた鬼丸だったが、説明を中断していきなりそう聞いてきた。
『今までの説明は実践的ではあるが、実用性に欠けるものばかりだ。現にいくら今対処法を教えてやろうが現状では意味がない』
唐突な鬼丸のカミングアウトに俺は転びそうになった。
今までの説明意味なかったのかよ!
『とりあえず次回からはさっきまでの説明を活かせ。さて今回どうするかだが』
もしかして鬼丸は何かをごまかしてる?
鬼丸の性格から、このタイミングで意味のない言動はしないだろうし。
だとしたら鬼丸は何を隠してる?
でも今は本当に時間がない。今は鬼丸を信じるしかない。
『今から¨欠片¨を使って現実に干渉する方法を教える』
5月29日(火)0時??分




