五拾六
5月29日(火)0時??分
遊園地某所。廃屋と化したお化け屋敷。
「……!?」
『これは!!』
宮崎は古い井戸に腰掛けて体を休めていた。
すると突然有り得ないほどの禍々しい波動が彼らを襲う。
「な、何だ…これ。いきなりラスボス登場?」
『これは万物を侵す常世の闇の召喚か…!?カリヤよ、一体何を…!』
その時、井戸の中から青白い顔をした女が…
「ぎゃあああぁぁぁああ!!!!?」
『ま、待つのだ!今はそれどころでは…』
ズガンッ!!
遊園地某所 。空中。
「し、死ぬかと思った…」
杉山がいるのは地面から約30メートルの位置。つまり宙に浮いている。
落ちる直前に杉山は全方位に向かって錘付きの鎖を伸ばし、辛うじてレールにぶら下がることができていた。
その状態から別々の方向に鎖を伸ばし、まるで蜘蛛の巣のように足場を広げていく。
するとちょうど正面にある城の方から言いようのない怖気が杉山を襲ってきた。
「うお!?」
とっさのことに反応できない杉山は、またも地上に向かって落下してしまった。
杉山が地面に激突する直前に見たのは、城の最上部を覆い尽くす漆黒の闇。
そしてそのまま地上付近のレールの上にいた男子生徒の後頭部だった。
ガゴッ!!
遊園地某所 。半壊したメリーゴーランド。
『……、おい……、おい、起きろ小僧!このままだと巻き込まれるぞ!』
鬼丸の叱咤に、俺の意識は少しずつ鮮明になってきた。
痛みに悲鳴をあげる体を無理やり起こして現状を確認する。
辺りには砕け散ったメリーゴーランドの破片。
体は壊れた馬車の下敷きになってボロボロ。
特にひどいのは殴られたお腹の方か。そういえば…
「…鬼丸、さっきの女の子は?」
辺りを見渡してみるも先ほどの少女(?)の姿が見えない。
俺の疑問に鬼丸は焦ったように早口に答えた。
『知らん!お前をぶっ飛ばした後、あの城の方に向かっていったのは見たが…。それよりもだ。その城が今やばいことになっている』
そう言われて城の方を見てみると、そこには有り得ない光景が広がっていた。
方向と距離の確認に利用していた巨大な城が、黒い霧のようなものに覆われている。
中央にある塔の先端から城の上半分までがまるで、蟻の大群が行進しているように真っ黒だ。
その霧のようなものは少しずつだが城壁を浸蝕していく。
俺は慌てて鬼丸に聞いてみた。
「あ、あれってどうなってんの?もしかして大量の昆虫でも群がってたり…」
俺の疑問に鬼丸は先ほど同様に焦ったように答える。
『あれは万物を侵す常世の闇だ。この世には存在しない、常世の地に充満している闇。一度そいつが地上に吹き出せば、いずれこの世をも呑み込んじまう、そんな代物だ』
鬼丸のその説明に俺は背筋が凍るような感覚に襲われた。
現実味のない内容だったが、目の前、いやだいぶ離れた位置に見える城の様子はまさにそんな感じだった。
『安心しろ。ここは仮想的に創り出された、言わば別世界だ。現実に戻ることができれば問題ない』
俺の様子を見て鬼丸がそう言ってくれた。
だがその声音は依然として硬いままだ。
『だが悠長に構えてもいられねえ。今俺達はゲームの真っ最中。この世界から逃れることはリタイアを意味する。…こんな所でリタイアなんて冗談じゃねえ』
なるほど、だから鬼丸は先ほどから焦っていたのか。
このままぼうっとしていたらあの闇に呑み込まれてしまう。
かといって現実に戻ろうとしても、まだ対戦相手を倒していない俺じゃリタイア扱いになってしまう。
「こうなったら極力あの城から離れた位置に移動して探すしかないね。多分他の奴らも遠くに逃げてるだろうし、今はあれに巻き込まれないようにしないと」
『ああ、それしかなさそうだな』
俺は立ち上がって体の調子を確認する。
「いてて。これは仕方ないか。…《カルラの光よ、我が肉体の翳りを祓いたまえ》!」
傷を治して、城とは逆方向に走ろうとしてから気づいた。
「そういえばさっきの子、城に向かったんだよね?」
『ああ、そうだが』
「じゃあまだ近くにいるかも…」
どうも嫌な予感がする。
俺は体を逆方向に向けて走り出した。つまり城に向かって。
『お、おい、小僧!?』
「ちょっとだけ様子を見にいってみる。すぐに逃げるから大丈夫だよ」
『ふざけるな!さっさと戻れ!』
鬼丸に怒鳴りつけられたが、どうも不安が胸につっかえている。
俺は構わずに城に向かって走り続けた。
5月29日(火)0時??分




