五拾五
5月29日(火)0時??分
ゴスンッ!!
「うごぁ!?」
「うきゅ!!」
ベンチに座って休んでいると、突然頭部に激しい衝撃が走った。
俺はそのままベンチの前の地面にゴロゴロと転がって、耐え難い痛みを味わう。
だがこれしきの痛み、修行のときに比べれば…
「うごあぁぁぁぁぁあ!!」
いや、無理。ものいっそ痛いわ!
正直痛みが完全にリンクしているせいで死ぬほど痛い!
後頭部陥没とかしてないよな?
「うぅ…」
しばらくしてやっと起き上がれるようになると、俺のすぐ横では小柄な女の子がうずくまって呻いていた。
頭を押さえているところからして、先ほどの衝撃は彼女との衝突によるものだろうと推測できる。
それにしても…
「…小さい」
俺はそうぽつりと呟く。
彼女は一見すると小学生に見えるほど小さくて華奢な体つきをしている。
茶色がかった長い髪をポニーテールにし、甲高い声で泣き言を言ってる様はまんま小学生だ。
すると呟きに反応したのか少女(?)はガバッと顔を上げ、俺の方を向いた。
可愛らしく整った顔。しかしその表情は怒りに歪んでいた。
「小さいって言うな~!!」
「ぐはっ!?」
先ほどの衝撃と比べても遜色ないほどの痛みが腹部に生じる。
見ると懐に入り込んだ少女(!)の小さな拳が俺の体にめり込んでいた。
それを自覚できたのはほんの一瞬。
次の瞬間には俺の体は十数メートルの距離を地面と平行に吹っ飛び、その先にあったメリーゴーランドに突っ込んでいた。
薄れ行く意識の中、俺はふと思った。
(今の子、最初から仮面つけてなかったな…)
5月29日(火)0時??分
遊園地の中心に位置する大きな城の最上階。そのバルコニーにある椅子にカリヤは悠然と腰掛けていた。
周囲には遊園地に散らばる生徒達の様子を観戦するための無数の水晶。
カリヤはそれを無表情で眺めながら紅茶を一口飲む。
一見興味なさげな様子だが、テーブルの上にあるケーキを口に運ぶ時だけはほんのかすかに口元が弛んでいた。
だがそれも甲高い声で何事か喚きながら近付いてくる少女の姿を視界に収めるまでだった。
カリヤは一瞬で完全な無表情に戻り、無言で紅茶を口に含んだ。
そして目の前に迫った少女はカリヤのことなど一切構わずに一方的に喚き続ける。
「ヒデーよ、カリヤ!こんなか弱い女の子を突き落とすなんてよ!しかもわざわざ複雑に入り組んだ断層に向かって!おかげて見ろ!こんなに大きなたんこぶができた!」
少女の怒りをカリヤは完全に無視してケーキを口に運ぶ。
「てか無視すんなよ、カリヤ!お前のせいで生徒の一人と闘う羽目になったんだからな!」
尚も無言で少女を無視するカリヤ。
しかしそれもテーブルの上にあったケーキを少女に食べられるまでだった。
「まったく、カリヤのせいで無駄に¨欠片¨を消費しちゃったぜ!ん?何だよ、一人だけこんなもん食いやがって。俺にもくれよ」
そう言って無造作に手に取り、ケーキにかじりつく。
「……!」
カリヤはケーキのあった空間に向かって手を伸ばした格好でフリーズしていた。
そして少女がケーキ半分食べ終わる頃には手が震えだし、桁違いな力が溢れ出す。
最後の一口を口に放り込んで時点で少女はカリヤの異変に気がついた。
「ん~まあまあかな!それにしてもカリヤって本当に甘いもの好きだよ…な?」
ついには具現化し始めた¨欠片¨は果てのない闇を呼び覚ます。
「《我召喚するは深淵なる常世の闇。万物を侵し終わりなき虚無を与えよ》」
それはカリヤの扱うことのできるものの中でも最上級に危険な代物だった。
「ちょと待て!落ち着けカリヤ!!そんなんここでぶっ放したらこの空間が保たねえって!」
少女の制止をカリヤは冷ややかに眺めると、静かに答えた。
「…安心しろ。ちゃんと手加減してやる。…お前が死なない程度にな」
「カリヤ!?」
次の瞬間、遊園地全体に鈍い衝撃がはしった。
5月29日(火)0時??分




