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五拾二

5月22日(火)8時20分


「お~い、阿部ちゃん、目が死んだ魚みたいだよ?」


俺が席について考えごとをしていると、つねが後ろからそう言ってきた。


いやいや、見えてないでしょ。そう思いつつも、

「え?あぁ、そう」


とりあえず生返事を返す。


すると今度はぎやまが俺の前に回り込んできた。


「確かに阿部君、心ここに在らずって感じだよ。もしかして…」


ここで周囲を気にするように声を小さくすると、どこか探るように聞いてきた。


「阿部君、¨夢¨での出来事、覚えてる?」


どうやらぎやまは昨晩の闘いで俺が負けて記憶を失ってしまったんじゃないかと懸念しているらしい。


俺はふと悪戯心が芽生えてしまった。


「…え?夢って…何のことかな。もしかしてぎやまの新しい小説?」


「阿部君…」

「阿部ちゃん…」


ぎやまとつねが同時に驚いたように目を見開いたので、俺は苦笑しつつ謝った。


「なんてね、冗談。ごめん、覚えてるよ」


「なんだよ、阿部ちゃん。驚かせないでくれよ」


「そうだよ。阿部君がリタイアとか有り得ないでしょ」


「つい出来事で」


俺が笑いながらそう答えると二人共安心したように頷いた。


「まったくだよ。おれとの甘い蜜月を忘れるなんて有り得ないよね!」


「一体何の話だよ…」


こんなやり取りをしているうちに、気がつくと朝のSHRが始まっていた。


5月22日(火)16時35分


「え~明日から中間考査が始まります。机の中身や私物はロッカーに入れるなどして撤去しておくように。では終わりです。挨拶」


「起立、礼」


「「ありがとうございました」」


担任の森尾先生の一言で帰りのSHRが終わりを告げた。


ぎやまやつねと話す気にはなれなかったため、俺は一人で帰路についた。


5月22日(火)16時55分


「鬼丸…」


俺は目の前に掲げた日本刀に向かって呼びかけてみた。


しかし鬼丸は何の反応も返してはこない。


昨晩の闘いが終わった直後から、鬼丸は何の反応も示さなくなった。


俺が意識を取り戻した時にはかろうじて反応はあった。


『しばらく眠る。【神器】は通常通り使えるから安心しろ。二、三日で目覚める』


それ以来ずっとこのままだ。


昨晩何があったのか。早く真相を知りたかったが、当の鬼丸がこんなんでは分かりっこない。


俺は仕方なく明日から始まる中間考査の復習をすることにした。


5月28日(月)11時50分


『そろそろ本格的な闘いになる頃だ。心してこい。たったの2日間しか修行できなかったのは痛いが、¨あれ¨ができるようになったのはかなり大きな進歩だ』


鬼丸は今までにないくらい上機嫌だ。俺が¨あれ¨を修得できたのが原因だろう。


なにせ今までの所有者で¨あれ¨ができるようになったのはほんの一握りだけだったらしい。


それもたったの2日間でものにしたのは俺を合わせても歴代の5人しかいないとのことだ。


全員が闘いの終幕まで生き残ったというし、相当な手練れだったらしい。


(『今回こそはあいつに…』)


そう呟いた鬼丸は、どこか強い意志を秘めた眼差しをしていた。



この2日間はテストが終わった直後からずっと修行三昧だった。


鬼丸が目を覚ましてからも考査に集中するため、あえて聞かなかったが、金曜日の午後には真相を教えてくれた。


パティッサが俺の命を刈る直前、鬼丸は俺と鬼丸自身の¨欠片¨のほとんどを使って鬼丸本体を顕現させたのだそうだ。


試験中にぎやまからも同じようなことを聞いていたのですぐに納得できた。


俺があの時意識を失ったのは一気に¨欠片¨を失ったからで、鬼丸が眠りについたのも同じ理由からだった。


ぎやまの【神器】である舞霞もうっすらとした影でしか顕現できなかったらしいし、あれだけしっかりと顕現するには相当な負担がかかるようだ。


まぁおかげで勝ち残ることができたし、前以上に強くなることができた。


今日返ってきたテストもまずまずの結果だったし、これで闘いに集中できる。


そういえばつねも珍しく赤点がなかったと言っていた。


ぎやまはケアレスミスで満点を逃したようだったが、二人もこれからは闘いに本腰を入れてくるだろう。


今の時刻は11時59分。


この2日間の努力を発揮する機会がやってきた。


5月29日(火)0時00分


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