五拾一
5月22日(火)0時32分
俺は目の前で起きた出来事に開いた口が塞がらなかった。
¨それ¨はスローモーションで落ちていき、大体育館の床に澄んだ音とともに突き刺さる。
俺が修得した二刀流剣術の中でも、特に武器破壊に秀でた技である¨朧雪¨。
パティッサ遣いはそれを軽々いなしただけでなく、なんと¨椿姫¨の刀身を両断してしまったのだ。
タイミングは完璧だったはずだ。実際、¨朧雪¨はパティッサの刀身を横から二連続でヒットした。
だが結果として、二つに折られたのは¨椿姫¨の方。
俺はただただ呆然として残った¨椿姫¨の柄と短くなった刀身を眺めることしかできなかった。
それは闘いの場において致命的な隙。
正気に戻ったのは今まさに俺の胴体を真っ二つに分断させようと迫る、パティッサの傷一つない刀身が視界に入ってからだった。
5月22日(火)1時00分
【…ザザッ…は~い、タイムアップ~!第二回戦終了だよ~!!いやー、みんなよく闘ってたね!一部信じらんないくらいヤバい連中もいたみたいだけど…。おっと、今のは独り言だ!聞き流してくれ!…ゴホン!あ~、とりあえず今回勝ち残った人数知りたい?ちょっと待ってね…えっと…。うん、前回410人が残ってたから今回は205人?カリヤ、正確な人数分かる?(…200人だ)200人だってさ!なんか妙にキリが良すぎるって?気にすんな!人数調節は仕事の内ってね(笑)】
5月22日(火)1時01分
大会議室にて
杉山は床に大の字で横になりながら、
「…(ふざけてやがる)!」
そう呟いた。そしておもむろに鎖鎌を出現させると、
「----------。」
それを眺めながら小さく口の中で何事かを呟く。
その傍らでは多節棍が転がっている。
多節棍は杉山が呟くと同時に、かすかに震えたように見えた。
5月22日(火)1時02分
【…まぁともあれお疲れさん!三回戦は一週間、間に入れての29日!今回の闘いで何かしら感じた子もいるんじゃない?一週間じゃ短いかもだけど、少しでも強くなれるように頑張ってよ!】
「ん~、まったく、よく言ってくれるねえ」
上半身どころか下半身まで制服を脱ぎ去り、残るは短パンだけの状態で宮崎はそう呟く。
『そんなことより、服を着てはもらえないか?さすがの我も羞恥心というものを感じていまうのだが…』
『いや~それにしても楽しかったな~。生身の殴り合いなんて何年ぶりだったかな~?まぁ夢だけどね~ww』
傍らの机の上に置いてあるトンファーの言葉を無視し、宮崎は独り言を続ける。
そして一瞬表情を消すと吐き捨てるように呟いた。
「はっ!暇つぶしにもならねぇ。もっと骨のあるやつはいねえのかよ?」
5月22日(火)1時03分
大体育館にて
【…そうそう!次回からは飛び道具主体の子も交ざって闘ってもらうからそのつもりで!それじゃカリヤ!最後にご褒美あげようか!(…ああ)】
そう放送されるやいなや、途端に体の隅々にまで力が漲ってきた。
闘いのダメージや疲労感が全て癒やされるだけでなく、以前にも増して体が軽い。
しかし…
「……。」
俺は大体育館の床にへたり込んだ状態のまま動くことができなかった。
眼前まで迫っていた¨死¨は一瞬で俺の体を貫く、もしくは両断していたはずだ。
まるで死に神の鎌を首にかけられたように、確実に殺られるはずだった。
しかし俺は無傷の状態でここにいる。近くにパティッサ遣いの姿はない。
(逃げ出した?)
働かない頭でそう考えたが、俺はその考えを否定する。
違う、俺もあいつも逃げ出したりなんてしてない。
かすかに頭にさっきまでの記憶の断片が浮かび上がってきた。
(そうだ、パティッサが迫ってきた瞬間…)
パティッサ遣い迫ってきた瞬間、俺から刃を遮るように一人の男が目の前に現れた。
そいつは見覚えのある刀でパティッサを受け止めると、たった一振りで刃ごとパティッサ遣いを両断してしまった。
そして消える間際、パティッサに向かって一言二言呟いて消えた。
最後に俺の方を振り向いたようだったが、その表情を見ることはできなかった。
急に体から力が根こそぎ無くなり、意識が朦朧としてしまったからだ。
意識が戻ったのは放送が始まってすぐだった。
5月22日(火)6時32分
俺は目を覚ますと横になったままぼうっとしていた。
昨晩の闘いの記憶ははっきりしている。だが…
「何が起こったんだ…?」
5月22日(火)8時20分




