五拾
夜の学校に響き渡る破壊音。
それは次第に激しさを増していき、ついには教室の壁が破壊された。
室内はまるで嵐の直撃にでも遭ったかのごとく荒れ果てている。
その現場を見る限り、それをたったの二人の青年が起こしたものだと分かる者はいないだろう。
壁が崩れ、一つになってしまった4Jと4Kの教室。
ちょうど二つの教室の壁だった場所を中間にして、二人は向かい合っていた。
その片割れ、常春の傍ら。何もないはずの空間からかすかな声が洩れ聞こえた。
『まだ二回戦だというのにやりおるの。しかし…実力はほぼ同じ。だが長引けばこやつの方が不利、か』
5月22日(火)0時27分
「ほらほら、どうしたよ。その図体は見かけ倒しかにゃ~?」
「んだとてめぇ!てめぇこそ段々威力落ちてきてんじゃねえか?」
「はっはっは、それはない!まだまだ若い者には負けんよ(笑)」
「てめぇいくつだよ!?」
場所を移してからすでに5分くらい経ったか。ラグビー部員(なんか面倒になってきた)はまだまだ余裕がありそうだ。
ラ部(略)のパワーは厄介だなww
【神器】で強化された腕力や技術はちょっとしたボクシングの世界チャンプ並だ。
こっちはスピードと経験で補っているが、当たる瞬間に致命傷な攻撃をかろうじて避け続けるのには集中力がいる。
一応何発も当ててるし、タイミングを合わせてクロスカウンターも入れている。
しかし【神器】による経験や本能のせいか、致命的なダメージは与えられないでいた。
「まったく…年は取りたくないもんだな…」
おれはそう呟いてから近くに転がっていた椅子を掴んでラ部(笑)に放り投げた。
中学時代に壊した右肩と両肘が、熱を持っておれに限界が近いことを知らせてくる。
ここでは痛みは鈍くなっていると言うのに、かすかにピリピリとした痛みが広がっていきていて正直勘弁して欲しい。
「こんなもん…」
「よっと」
ラ部が椅子に注意が向いたと同時にダッシュを開始し、その懐に潜り込む。
陸上部では女子より遅いスタートも、一般の生徒に比べればそこそこなスピードになる。
「あ?」
「ヨイショ~」
ドドドッ!!
とことん練り込んだ打撃をラ部の脇腹にめり込ませる。
セスタスをはめた拳に確かな感触が伝わってきた。しかし…
「あちゃー、浅いかww」
拳は確かにいい所に入ったけど、おれは本来のセスタスの所有者ではないため、普通に打撃を加えるのと大して変わらないダメージしか与えることができない。
これがトンちゃんなら決着もついていたかもしれない。
けどいくらおれが平均より少しばかし強くたって、ただの学生であることに変わりはないんだよね。
まぁつまり何を言いたいかと言うと
「うらあ!!」がっ!!
「おっふ!」ガシャン!
自分の【神器】も使わないで【神器】をフルに使ってくる相手に勝てるわけがなかった、ってことだ(笑)
『常春よ、そろそろ我を使ったらどうだ?体の限界も近いであろう。遊ぶのはいいが、本来の目的を忘れるでないぞ』
「いてて…分かってるって。おれも飽きてきたし、もう終わらせるよ」
立ち上がってダメージの度合いを探る。肋骨が数本折れて肺に刺さっている。
「《戻れ》」
そしてまだ完全に治らないうちに再びダッシュを仕掛けた。
「何度やったっておな…「《トンファー》」」
ズドンッ!!
先ほどまでとは比べ物にならない威力の一撃がラ部の腹部に突き刺さる。
そして間髪入れずに
「《斬馬刀》」
斬馬刀を出現させ、トンファーによる一撃の痕に上書きする。
ザシュ!!
「が…え…?」
己の腹に突き刺さったものが何なのか理解できなかったのか、ラ部は呆然としたように息を吐いた。
おれは貫通している斬馬刀を消した。
すると支えを失ったラ部の巨体が床に倒れ込む。
すでにその体からはかすかな燐光を放ち始めていた。
「ん~。まぁ、なんだ。楽しかったよ。…《喰らえ》」
こうしてまた、おれの【神器】が一つ増えたのだった。
こんな最後じゃラ部(笑)に失礼だったかな?
5月22日(火)0時32分




