四拾八
5月22日(火)0時29分
「えっと…何やってんの?」
……はっ!
ついついポーズをとってしまっていた。俺は慌てて上に上げていた両腕を下げると、鬼丸を構え直した。
「い、今のはイメージトレーニングってことで…」
「あ、ああ、うん」
微妙な空気になりながらも俺達の間は軽くピリピリしている。
先ほどから鬼丸とパティッサの放つ殺気は留まることを知らない。
『小僧ぉ。遊んでないで集中しろ…』
「ご、ごめん」
睨み合うこと十数秒。
先に動いたのはパティッサ遣いの方だった。
ズバン!
残像を残して、ほとんど予備動作なく5メートル以上の距離を詰めてきた。
傍目には瞬間移動したように見えたかもしれない。まるで弾丸のようなスピードだ。
後方には軽く軋んだ床と短い焦げ目があり、いかにその少ない動作で凄まじい威力を発揮したのかが分かる。
『¨縮地¨か!』
鬼丸のそんな軽い驚きを含んだ声を聞く暇もなく、俺はほとんど反射的に横に跳んでいた。
どしゃあぁぁぁ!!
パティッサ遣いの通り過ぎた風圧に、まだ宙にいる俺は思い切り煽られた。
体勢を崩したまま床に転がり、所々に打ち身を作りながらもすぐに立ち上がろうとする。
しかしどうやっても立てないので足元を見てみると、なんと膝から下、両脚がなくなっていた。
そしてなくなった両脚は俺から数メートル離れた位置に転がっている。
右腕も胸に抱え込んでいた鬼丸の刃で抉れ、裂けてしまっていた。
しかし顔を上げた先にある光景を視界に収めると同時に、痛みを感じるどころではなくなってしまった。
俺が立っていた辺りから背後に向かって深々と数メートルの裂け目があり、その端には床にパティッサを突き刺したままの体勢でパティッサ遣いが止まっている。
呆然とそれを見ていること数秒。ピクリとパティッサ遣いの肩が動き、続いてこちらを向いた。
「いい反応してるな。正直今の一撃でケリをつけるつもりだった」
そう言って床からパティッサを抜く。
『もう¨縮地¨を使える段階に進んでいるとは…。そのガキを相当しごいたようだな』
『いや、それ程でもないよ。完全に極めたわけじゃないし、まだ着地点で止まりきれない。着地してからの硬直時間も長いしね。』
『こいつはうかうかしてられねえな。…おい、小僧!ぼおっとするな』
鬼丸にそう言われて、やっと俺は自分の置かれている状況に気がついた。
『か、《カルラの光よ、我が肉体の翳りを祓いたまえ》!!』
どうにかそう呟くと、離れた位置に転がっていた両脚が飛んできた。
「…ぅあ!」
いざくっ付いた瞬間に走った痛みに思わず声がでる。
意識していなかったが、前回よりも更に痛みを感じる度合いが大きくなっている。
腕の傷が塞がるのを確認する暇もなく、次の瞬間またもパティッサ遣いの姿が霞み、残像を残して迫ってきた。
「…くっ!」
今度は事前に来るのを予測していたので、脚を持っていかれずに済んだ。
しゃがんだ体勢から無理やり横に転がる。
しかしいくら予測していたとはいえ、あまりのスピードに完全には避けきれなかった。
軽く腕を掠めただけで大分抉られてしまい、再び腕を治す。
「このままじゃ保たない…!」
俺は十数秒の攻防でそれを悟った。
¨縮地¨とやらは連続して使えないようで、間に数秒のタイムラグがある。
しかし距離を詰めて攻撃を加えても、最小限の動きでいなされてしまう。
実力差は圧倒的だ。テスト期間中に鍛練を怠ったことが今になって悔やまれた。
スピードの桁が違う。俺の一振りにパティッサ遣いは二撃で反撃を入れてくる。
『小僧、¨朧雪¨だ!』
「あ、ああ!」
鬼丸に言われて、俺は一旦パティッサ遣いと距離を取る。
「《小刀 椿姫》!」
椿姫を出現させ、一気にパティッサ遣いとの距離を詰める。
そして鬼丸と椿姫を構えると、俺の使える中で一番刀剣に強い技を繰り出した。
「はあっ!くらえ、¨朧雪¨!!」
大体育館に澄んだ金属音が鳴り響いた。
5月22日(火)0時51分




