四拾四
5月22日(火)0時17分
速攻で6ハウスの電源を破壊し、いくつか簡単なトラップを仕掛けてから、おれは2ハウスの方向に歩き出した。
「それにしても2ハウスから6ハウスまでで100m走ができそうな高校なんてここくらいかもね!」
『うむ、確かにこの学校は広いな。これでは短期戦はきつい』
「そういう難しいことはいいからさ、もっとこう、wktkな話題はないの?」
『わくて…?』
「あ、分かんない?wktkってのは…って何だこりゃ」
そんな風にふざけ合い(一方的)をしているうちに3ハウスの前までやって来た。
「わお。相当きちゃってるね」
おれが驚いたのは、その凄まじい破壊跡だった。3ハウスの出入り口はめちゃくちゃに破壊されていた。
内と外を隔てているスライドドアのガラスは全て砕け散っており、破片が辺り一面に散らばっていて足の踏み場もない。
さらに3ハウス前にある直径1m以上の太い柱は大砲で砲撃を受けたみたいに抉り飛ばされていた。
「こりゃまたとんでもない破壊力だな。この現場を見る限りじゃ打撃系の【神器】か。トンちゃん、どう見るよ?」
『うむ、おそらくそれで合っている。斬撃の跡ではないしな。…相当な手練れだ。是非とも手合わせ願いたいものだ』
「それだったらいけるよ。どっちみち倒さないとだし」
「誰を倒すって?」
瞬間、おれの全身に緊張が走った。とっさに振り向こうとし、だが同時に脳内の危険信号が赤く点滅する。
おれは素早くガードの体勢に入り、全力で横に跳ぶ。
しかし一瞬の躊躇いが明暗を分けた。
背後から迫ってきた拳が避けきれなかったおれの脇腹に突き刺さる。
ドクシャッ!
まるで砂糖菓子のごとくあばら骨が粉々に砕け、風船のように内臓が一気に破裂する。
トラックにはね飛ばされたような衝撃と共に、おれの体は破壊された柱の残骸に突っ込んだ。
「ったく小賢しい罠ばっかり仕掛けやがって!煙たいったらありゃしねえ」
そう言いながらチョークの粉で白くなった髪をはたく。
そして瓦礫の下敷きになっているおれの所まで近付いて来ると、そのまま背中に足を乗せてきた。
「つーか何で裸なんだ?変態「変態じゃねえ、紳士だ!!」うお!?」
おれが飛び起きたことでバランスを崩した相手が体勢を立て直す前に立ち上がる。
そして距離をとると落ちていた瓦礫の一部を牽制に投げつける。
「危ないなまったく!危うく死ぬところだったよw」
「てめぇ!何で動いてられる!?確かに手応えはあったはずだ!」
「いきなり背後から襲ってくるようなやつに教えてやるかよ。知りたければ捕まえてみな!」
「あ、おい待て!」
おれは数本のカッターを投げつけて足止めし、構わずに5、6ハウス方面に向かって全力で走り出す。
すぐに男の怒鳴り声が遠くなっていくが足は止めずに走り続けた。だてに陸上部で鍛えてはいない。
県大会の決勝を走るような化け物達に比べれば、あんなやつ止まってるのと大差ないな。
今思い出すだけで鳥肌が立ちそうだもん、県大会の決勝。みんな検索すれば名前が出てくるくらいの猛者達だったし。
とりあえず近くにあったバケツを5、6ハウスの方に投げて進んだ方向を偽装する。
おれ自身は体育棟に向かう途中にある保健センターに入り階段を下っていく。
「いてて(泣)とっさに斬馬刀を柱との間に出現させて緩和したのはいいけど、あの拳は効いたよ。…《戻れ》」
短くそう呟くとみるみるうちにガラス片や柱の残骸による擦り傷や切り傷、打撲が消えていく。
急なダッシュで剥けた足の裏の皮膚もくっつくのを感じる。
外傷が消えると次は破裂したいくつかの内臓と粉々になったあばら骨が復元された。
まったく、ここが夢じゃなかったら気絶どころじゃ済まなかったところだ。
『痛みの度合いはどれくらいであった?』
「ん~三割ってとこかな。あの攻撃を連続でくらえば即退場だw予想してたよりも感覚のシンクロが早い。これってやっぱ稲穂の生徒数がハンパないからかな?」
『うむ、おそらく。我が知る限りでは、いつもならこんな序盤でそこまでのシンクロはしない。せいぜい腕がもげて顔をしかめる程度だの』
「それは笑えるなwwでも感覚が鈍すぎると気配が分からないし不便だ」
『終盤になれば現実とまったく同じ痛みと現象が起こる。常春よ、まだ血は出てなかったであろう?』
「ああ。血までリアルになってたら死んでたかもね。骨とか臓器なんかももっとリアルになればさっきみたいに動けないよ。てかあいつまったく気配感じなかったな。」
『感覚が戻れば察知できるであろうよ』
「ま、とりあえず…」
そう言って振り返る。
「決着をつけますか!」
階段の上には先ほどおれを瀕死近くまで追い込んだ男が立っていた。
5月22日(火)0時25分




