四拾三
5月22日(火)0時16分
クマ仮面は鎌を低い位置に構えて一直線にこちらに向かってきた。
鎌のリーチは大したことはないが、オレは一歩大きめに飛び退く
そしてオレは棍の端を床につけて飛び上がった。相手からすれば突き立てた棍の上に逆立ちしようとしたように見えただろう。
だがオレはあらかじめ配置しておいた鎖の環に足を通しておいたので、それを縮めて天井まで移動する。
さらに今度は天井を蹴って落下しながら棍を投げつけた。
「おりゃ!」
「!」
クマ仮面はそれを鎌で受け止めるのは無理と判断して後方に跳ぶ。
だがそれはオレの誘導にまんまと引っかかる形となった。
「な、なんだ!?」
クマ仮面の跳んだ先には鉄棒が並んでいたのだが、そこには蜘蛛の巣のように絡み合った鎖の壁が存在した。
それがクマ仮面が着地すると同時に一斉に別々の方向に高速で巻き取られていく。
鉄棒と鎖の擦れる甲高い金属音が鳴り響き、細かい火花が暗闇の中突然目に刺激を与えたため、クマ仮面はとっさに目をつぶり硬直してしまう。
そして今度は鎖が巻き取られピンと張られると、その先に設置しておいた跳び箱の山がバランスを崩しクマ仮面に向かって倒れていく。
大きな破壊音と共に床が跳び箱の段で覆い隠された。それぞれが積み重なり、その下のクマ仮面がどんな状態なのかは分からない。
オレは鎖で天井からぶら下がったままの状態で別の鎖を引く。
新体操場の電源に繋いでおいた鎖が動いてスイッチが入り、隅々まで光が光景を映し出す。
「…えっ!?」
オレはその現場に困惑してしまう。多少埃が舞ってはいるが、跳び箱の下には誰もいなかったからだ。
急いで鎖を伸ばし、床に着地するとクマ仮面がどこにいったのか見渡す。
「とりゃ!」
「がっ!?」
鋭いかけ声が聞こえると同時にオレの後頭部に衝撃が走る。
思わず床に倒れ込んでしまい、慌てて起き上がろうとしても、当たりどころが悪かったのかうまく動いてくれない。
ゆっくりと衝撃が来た方向に顔を向けると、そこには鎌から伸びた鎖とその先についた錘を手繰り寄せるクマ仮面がいた。
鎖鎌…?(ドクン)
「…え?」
クマ仮面が持っていたのが鎖鎌だと認識した瞬間、心のどこか深いところが振動したように感じた。
「あんたの戦い方をまねさせてもらったよ」
クマ仮面が勝ち誇ったように何か言っているが、オレの目は鎖鎌に吸い寄せられていた。
「とっさに鎖を利用して避けたんだけど、暗闇が仇になったな」
鎖鎌…。何か、思い出せそうな…
「って、なんだ一発で終わりかよ。おい、起きてるか?ったく、もう止め刺しちまうか」
そう言って鎖鎌を振り上げる。
瞬間
オレの頭に断片的な記憶が沸き上がる。
鎖を利用して縦横無尽に飛び回るオレ。
鎖の先についた錘で獲物を、相手を破壊するオレ。
天井から鎖を使って飛び降り、不意をついて首を切り落とすオレ。
「あ、あ、ああ、あ?」
それは一瞬で過ぎ去り、オレは呆然と迫り来る凶刃を眺めていた。その時
『裕ちゃん!』
俺のすぐそばで舞霞の声がして、跳ね上がった棍の一部が鎌の一撃を受け止める。
「なっ!?」
そして棍の端に繋がっている鎖がクマ仮面の首に巻き付き、そのまま天井近くまで引き上げた。
5月22日(火)0時18分
大体育館の屋根の上。カリヤと大剣はそこで数多の水晶に映し出される闘いを観戦していた。
『やっぱり校舎一帯は広すぎたかな、カリヤ?あんまり戦闘に入ったとこがないし、こんな広い学校が戦闘フィールドだってのが問題だよね!…あれ、カリヤ?』
「……。」
カリヤは大剣の言葉を無視して、一つの水晶に集中している。
そして無表情な顔にほんの少しだけ微笑みを浮かべ、水晶に手をかざした。
『…久しいな』
そう言ってカリヤはまた元の無表情に戻る。そしてまた他の水晶の映像に戻っていった。
5月22日(火)0時15分




