四拾二
【パティッサ:全長110~130cm。重量1.5~1.8kg。インド(17~18世紀)。幅広く先太りの刀身を持つインドの片手剣。切っ先は鋭くないのが特徴で、刀身の重量を活かした斬撃に適している。鍔に小さな鉤爪がある。】
5月22日(火)0時20分
慎重に音を立てないように気をつけていても、学校の上履きからはキュッキュと音が出てしまう。
仕方がないので上履きは近くの机の下に隠して、靴下は脱いで裸足で向かう。
いざ闘うことになった場合靴下だと足元が覚束ないし、裸足のほうがより足音を消しやすい。
「(…一体どこに向かってるんだ?)」
先ほどまで聞こえていた足音も、移動しながらでは小さ過ぎて聞き取りにくい。
角から確認してみたが、体育棟に向かう通路の途中にある保健センターへの入り口はスルーしていったようだ。
この先には体育棟、大体育館、第1から第3体育館、剣道場、体育学習室などがあり芸術棟とも繋がっている。
出入り口はいくつもあるし、出てしまえば近くに生徒会本部や部室棟、芸術棟、弓道場、プール、駐輪場がある。
弓道場と駐輪場の方に行けばラグビー場やテニスコート、400mトラックにサッカー場もある。
「(外に出られたら厄介だな…)」
俺がそう呟くとすかさず鬼丸が
『(外に出て行くことはルール上ないだろう。ルール説明では【今回は教室に限らず校舎内ならどこでもOK!】と言っていた。校舎内であるならということを強調し飛び道具は外と限定していることから、俺達が外に出ることを禁止もしくは外に出た瞬間即失格ということを示唆しているのかもしれねえ)』
「(マジでか!?…外に捜しに行かなくてよかった…)」
『(もちろん俺が言ったことが合ってるとは限らねえが…。用心するに越したことはない。うまくすれば自滅させられるかもしれねえ)』
「(そりゃ闘うより楽だけど…、とりあえず行動は把握しとかないとな。いきなり背後から闇討ちされたんじゃたまらないし)」
そこで対話を打ち切って耳を澄ませる。足音はどんどん離れて行っている。
俺は柱や壁の死角を利用して、一定の距離を保ちながら尾行していく。
柱の陰からチラリと見えたが、相手は男子生徒のようだ。見えた限りでは短髪で身長は170cmより大きいくらいだ。
相手が階段を下りていったのを確認して、俺も階段まで一気に進む。
一段一段ゆっくりと下りて行く途中、大体育館の扉を開ける音が聞こえてきた。
鉄製の扉のため、大きくて耳障りな金属音が体育棟に響き渡る。
相手は自分の行動を隠す気はないようだ。この様子だと、4ハウスの辺りまで聞こえただろう。
これだけの静寂の中だったら、耳を澄ませば2ハウスまで聞こえたかもしれない。いや、それはないか、この学校広いし。
「(これって罠かな?)」
『(…誘っているのは間違いないだろう。罠なのか、それともよほど腕に覚えがあるのか…)』
そう言って黙り込む鬼丸。確かに前聞いた限りじゃ生徒一人一人に歴代の経験と記憶があって、全員達人級の腕前らしいからな…。
かく言う俺も剣術の腕や技は達人級なんだそうだ。いまいち実感が沸かないけど。
俺は大体育館の扉の前までいくと、人一人分開いた隙間から中を覗き込んだ。
5月22日(火)0時24分
「おい」「!!?」
ドゲシッ!
大体育館の中の様子を窺っているといきなり背後から声がして、同時に強烈な衝撃が背中を走った。
状況が読めないうちに俺は大体育館の中に押し込まれてしまった。
慌てて起き上がり後ろを見ると、さっきまで俺が尾行していた男子生徒が入り口から入ってくるところだった。
どうやらさっきの衝撃はあの男子生徒に蹴り飛ばされたからだったらしい。
それよりも…
「いつの間に出ていったんだ?」
大体育館の扉が開いてから俺が目の前まで移動するまで30秒も経っていなかったはずだ。
それなのにどうやって背後に回り込まれたのか?
「扉開けたからって入ったとは限らないでしょうよ。開けてすぐに近くのトイレに隠れただけだし」
なるほど、てっきり中に入ったものと思い込んでいた俺はまんまと錯覚させられたのか。
「てかあんた尾行下手過ぎでしょ。手鏡で後ろ確認したらめっちゃ写ってたし」
最初からバレてたのか…
「まあそんなこといいから闘おうよ。これはそのための場所なんだからさ」
そう言って何もない空間から剣を出現させる男子生徒。
俺も構えて鬼丸を出現させた。
5月22日(火)0時16分




