三拾七
【朴刀:全長60~150cm。重量1.5~5kg。中国(10~20世紀)。太刀のような柄を短くし、近接戦闘で役立てようとしたもの。日本の長巻とちょうど逆の発想である。全長150cmになるものもあるが、大刀よりも全長に対する刀身の割合が大きい。両手で持つことから双手帯とも呼ばれる。】
【棍:全長110~300cm。重量0.7~2kg アジア(年代不明)。堅い木を丸く削り出した棒であり、槍などの柄よりも太く作られることが多い。西洋でいうスタッフに相当する。棍を使った棍術はあらゆる武器の基礎となる動作を含むため、中国には「棍を根となす」という言葉もある。】
【錘:全長60~80cm。重量0.8~2kg。中国(10~20世紀)。楕円球の頭部を持つ中国版のメイス。錘とはおもりの意味もあり、頭部そのものも指す。柄は木製だが、頭部は木製のものも金属製のものも木を鉄で覆ったものもある。頭部の形から瓜とも呼ばれる。】
【メイス(槌矛):全長30~80cm。重量1.5~3kg。世界各地(紀元前14~紀元17世紀)。柄の先端に重量のある頭部をつけた打撃武器で、片手用のものが多い。木製の柄に金属製の頭部をつけたものが一般的だが、金属製の柄や石製の頭部を持つものもある。棍棒の発展形であるため、世界各地で同様の武器が見られる。】
5月17日(木)0時11分
「せやっ!」ズバンッ!
「…くっ!」
俺は教室の隅に追い詰められていた。相手の長い刀身から繰り出される一撃はほぼ必殺の威力を秘めている。
『小僧、朴刀は太刀とそんなに違いはねえ。条件はほぼ同じだ。このまんまじゃジリ貧になる。さっさと反撃に転じろ』
「分かってるそんなの…っ!」
そう、確かに俺と相手には得物の差がほとんどない。しかし体格があまりにも違い過ぎた。
身長は恐らく180cmは下らないだろう。しかも運動部なのか筋肉隆々だ。
その太い腕から振り下ろされる一撃はさながら断頭台。
しかも見た目に合わず俊敏でフェイントまで織り交ぜてくる。これでは半端な反撃は命取りだ。
『仕方ねえ、¨あれ¨をやるぞ!』
「くっ!こんな序盤から使うことになるなんて…!」
「おりゃ!はっ!どうしたこんなもんか!」ズバンッ!ガシュンッ!
怒涛の勢いで攻めてくる相手から距離を取って、俺は小刀を出現させた。
「来い、《小刀 椿姫》!二刀流¨朧雪¨!!」
瞬間相手の朴刀は澄んだ音と共に真っ二つに折れた。
5月17日(木)0時07分
ガガッ…ガッ…ゴッ…ガギンッ…ゴッ…ゴッ…ガガガンッ!
開始早々に始まった打ち合いは隙を窺いながらいまだに続いていた。
どちらも決め手となるタイミングが定まらないため、このままでは制限時間が終わってしまう。
「はあっ!」
あちらも同じことを考えていたのか、棍を強く突き出さしてくるとそのまま連続で打ち込んでくる。
「よっ…と!」
それを柳のように受け流し、手元の鎖を引くと深く踏み込んできた相手の足元から急に棍が跳ね上がってくる。
あらかじめ鎖を伸ばしておいた多節棍の端を床に配置しておいたのだ。
それに驚いた相手は足に巻き付いた鎖を解こうとするも、それを許すぎやまではなかった。
「はい、油断大敵!」
素早くもう片方の鎖を相手の首に巻き付けると、そのまま強く引きつける。
蛍光灯を支点に鎖を引いたため、相手は鎖に首を吊られて足も引かれた状態で固定される。
相手はしばらくして動かなくなった。
5月17日(木)0時03分
「へい、そっちのイカしたお兄さん!どお?俺と組んであちらさんをってうおっ!?(バゴンッ!)危な!ちょっといきなりすぎってやべっ…(ガンッ!)ちょ、やめ…!こうなったらそっちのハンサムな…ってうわっ(ドゴンッ!)何で二人して俺狙い!?武器が似てるから共感でも覚えたのかよ!」
錘とメイスを持った二人は適度な距離を開けながらも協力して潰す気らしい。
『ほっほっほ。まったくお前さんは見ていて飽きないな。』
「笑い事じゃないって(ガンッ!)!しゃあねぇ…《斬馬刀》!」
掛け声と共に教室という限られた空間に身の丈を越す巨大な刀身が姿を現す。
「ちぇすとー!!」
そんな台詞とは裏腹に突進することなく大きく振り回された斬馬刀は、いきなりの召喚に驚いて硬直した二人の首をやすやすと胴体から切り離した。
「《喰らえ》!」
残った体が倒れる前にその一言が教室に響いた。
5月18日(金)8時18分




