三拾六
5月14日(月)4時40分
「どうも現実味がないんだよなぁ。たしかに夢であったことは事実だけどさ。だけど結局この闘いの意味って何なの?どうも要領を得ない話ばっかだし、誰か分かりやすく説明してくれないかな。」
現実に、っていうと語弊があるかもだけど、俺達は部屋に戻っていた。
鬼丸たちはあの空間を維持するのに、話にも出てきた夢の欠片を消費したため今は眠っているようだ。
夢の欠片についてはいずれ自然と理解できるだろう、とのことだ。
細かいところはぎやま同様あまり分からなかったが、さすがにつねみたいに本能の赴くままってわけにはいかない。
「この闘いに意味はないのかな?」
あの空間で最後に鬼丸たちが言っていたのは、
『結局のところ、俺達もこの闘いについては把握していない。ただ俺達は存在しているだけだ…』
珍しく歯切れ悪くそう言っていた。その様子はまるで何かをもどかしく思っているようだった。
「もしかしたらトンちゃんたち、記憶を弄られてるのかもね」
突然つねはそう言って何の反応も返さないトンファーを握った。
「俺、今までに何百冊も本読んできたけど、トンちゃんたちの様子ってまるで記憶の一部分を消された人のみたいなんだよね。もちろん似てるだけだけど」
数回トンファーを突き出す動作を繰り返すと、つねはまさに今俺が考えていたことを言った。
「答えが分かっているのに、それをうまく言葉にできないというか、一度答えを見たのにそれを忘れてしまったような…。本当に見ててもどかしそうだった」
その後俺達の間には微妙な空気が残ったままだった。
5月17日(木)0時00分
【ハーイ、みんな!これより第一回戦を始めるぞぉ!1対1のガチンコバトルを楽しんでくれ!予選同様リタイアは認めるから戦意喪失したらそう宣言してね!今回の制限時間は15分!もし時間内に両者共に生き延びてた場合はジャンケンね(笑)。それじゃあ戦闘開始!!】
ここに来ると同時にアナウンスが始まり、俺は改めて状況を確認した。
ここはどうやらどこかの教室らしい。外の景色は暗くてよく見えないが、2ハウスではないようだ。
俺が立っているのは教室の後ろにある黒板の前。そして、
「とりあえず、お願いします!」
教卓の前には一回戦の対戦者が構えていた。
5月17日(木)0時00分
【…それじゃあ戦闘開始!!】
放送が始まると同時に自分の武器であり相棒の舞霞を構えていたけど、どうやら相手は放送が終わるまでは何もしてこないみたいだ。
油断なく舞霞を構え、放送が終わるのと同時に駆け出す。
相手も同じ考えだったのか、放送の残響も消えないうちに教室の中には衝突音が響いた。
5月17日(木)0時00分
【…それじゃあ戦闘開始!!】
「ちょい待ち!1対1とか言ってるけど、明らかにここ3人いますよ!?」
教室には自分を含めて3人の男子生徒が対峙していた。
この状況は今まさに放送された内容と一致しない。これはまさか…
「…そういえば予選の生き残りって奇数だったし…もしかしてハズレ引いた!?」
油断なくトンファーを構えつつも、脱力感ははんぱなかった。
5月17日(木)0時01分
『カリヤカリヤ!今回は何人残ると思う?多分リタイアがほとんどだろうな!最近の若者は痛みに弱いから!何回戦まで続くか賭でもしようぜ、カリヤ!今回はそうだな…七回戦までは残ると見たね!』
稲穂学園の芸術棟。その屋上ではカリヤと呼ばれる男と身の丈を超えるほどの大剣が対話していた。
『それにしてもさすがはマンモス校!有望そうな若者がたくさんいるね!これはひょっとすると複数の【神を…「…黙れ」』
大剣の止まらないお喋りを一言で黙らせると、カリヤは周囲に浮かぶ無数の球体に目を巡らせる。
「…観戦の邪魔だ」
ちょうど球体には闘いの始まりが映し出されていた。
5月17日(木)0時01分




