三拾五
?月?日(?)?時??分
「感覚が鋭くって…。まったく痛みがないんだけど?」
視界の端でぎやまが頬をつねっているのが見えた。
『そ。最初にカリヤたちが説明してたけど、普通夢ではほとんど痛みがないし死なないのよ。』
『だがもっとよく感じてみるといい。しっかりと感触があるだろう?初めておぬしたちが自らの自我を夢に連れてきた時にはそれすらもなかったはず。』
そう言われて初めて鬼丸に会ったときのことを思い出したが、たしかにあれだけ叩きつけられたり切り刻まれたりしたのに痛みはまったくなかった。
『カリヤがお前達に褒美と言って渡したのは…そうだな、夢の欠片とも言うべきものだ』
『人は皆誰しも様々な夢を持っているでしょう?そしてそれを実現させようと努力している』
『ふむ、例えば将来就きたい職業や入りたい学校、スポーツで言うなら優勝や自己ベスト更新したいなど、ありとあらゆるものの根源には願いや想いがある』
『そういった願いを叶えたいと想う原動力こそが夢の欠片だ。』
そう言って鬼丸は刀を抜き、そのまま俺の右腕を切り落とした。
「え?うわっ!な、何すんだよ!?」
あまりに自然な動作だったため、身じろぎする暇なく右腕を落とされてしまった。
しかし腕を切り落とされたというのにまったく痛みはない。いや、微かにピリピリと断面が疼いているか?
鬼丸は抜いたままだった刀を俺の右腕の断面に当てると、
『《カルラの光よ、彼の者の肉体の翳りを祓いたまえ》』
鬼丸がそう言った途端に、転がっていた右腕が逆再生のように断面にくっつく。
山吹色の火花が消えると後には何も残らなかった。
「い、いきなり何『今ので俺の中にある夢の欠片を少し消費した』」
そう言って鬼丸は刀を鞘に収める。そして何もなかったかのように説明を再開した。
『夢の欠片は言い換えるなら実現の力だ。想いが強ければ強いほどその力は増していく。そしてそれは現実にも影響を及ぼす』
『それって結構いろんなところで関係してるって知ってた?想いが強すぎて自分の意志とは関係のない行動をとってしまうことなんてざらよ』
『ふ、若気の至りといったものはだいたいそれだな。思春期の若者には特に夢の欠片、実現の力が多く内包されている。いや、生み出されている。そのため、ほんの些細な願いにさえ反応する』
『俺達が何を言いたいか分かるか?カリヤがお前達に夢の欠片を与えたんだ。つまりあいつの言ってた通り、お前達の願いは実現する』
『もちろんそんなに多くないから、たいした願いは叶わないけどね。でもこのまま勝ち進んでいけばいつか自分の願いが実現するまでに夢の欠片はたまっていく』
『そしてその副産物として、夢がより現実味を帯びてくる。いつか夢の中でも現実同様に痛みを感じるようになるだろう。我らと共に闘ってきた者達もそれでリタイアしていくことがほとんどだ』
『闘ううちに夢の欠片を大量に消費してしまい、まったく別の人格になっちゃう人もたくさんいるからあなた達も注意してね』
『まぁこれらのことをまとめて言うなら、これからどんどん闘いは激しくなっていくってことだ。そしていつか夢で傷つけば現実の肉体にも影響がでてくる』
5月14日(月)4時40分




