三拾四
?月?日(?)?時??分
「…ここは2Lか?」
俺達は一瞬で2Lの教室の中央に移動した、訳ではなく夢の中で2Lの教室にいた。
「ここ夢だよね?なんかちょっと違和感ない?」
「確かに。昨日の学校はもっとなんとなくはっきりしてたかも。でもここはちょっと違う…かな?」
「机の中は空っぽだね。それにやっぱり何か違う…」
ぎやまとつねが言うように、俺もこの2Lの教室には微かに違和感を感じていた。どこがどうとは言い表せないのだが…。
『違和感があって当たり前だ。ここはお前ら三人がそれぞれに感じたままの2Lだからな。』
「えっ、阿部君?」
「…誰?」
突然の声に入り口のほうを振り返ると、そこには机の上で胡座を組んだ鬼丸がいた。
さらに教卓の前には甘く微笑んでいるぎやま、窓辺には何かを悟ったような顔をして腕を組むつね。
『鬼丸だ。…お前らはダチの顔も見分けられないのか?』
『まぁまぁ鬼丸殿、いきなりのことで彼らも戸惑っている様子。勘弁しておやりなさい。』
『そうですよ鬼丸さん。ここに来るように言ったのは私たちなんだから説明してあげましょうよ。』
「うわ~…。誰かは分かったけど、ぎやまのおかま口調はきついなぁ。」
「ちょっと待って宮崎君!俺じゃないから!舞霞だから!そこんとこ勘違いしないでよ!」
どうやらぎやまの武器は舞霞と言うらしい。
そういえばつねの武器は何て言うんだろう?まさかトンちゃんなんて名前のはずないし。
『もう、ひどいわね。別に嫌いじゃないんだけど、この容姿。』
「そういう意味じゃないから!」
『ぴーぴー喚くな。んなことどうでもいい。さっさと用事済まして戻るぞ。』
『ふむ、鬼丸殿はもう少し穏やかな物腰になるべきだと思うが。…だが我としても早々に用件を済ましてしまいたいところ。舞霞殿、ここは大人しく。』
『分かってます。ではさっさとやってしまいましょうか』
「やるって何を?」
「そうだよ、説明してくれるんじゃ…」
「とりゃ!!」
そこまで言ったところでいきなりつねがもう一人のつね、トンちゃんさんに向かって手近な椅子を投げつけた。
「うわ!宮崎君いきなり何を…」
「つね…!」
「オラオラオラオラアァ!!」
『ほっほっほ!相変わらず理解が早くて助かるぞ、常春よ。』
つねが投げた椅子を最低限の動きで避けていくトンちゃんさん。その動きに一切の無駄がなく、まるで椅子のほうから避けて飛んでいくようだ。
さらにトンちゃんさんはいくつか椅子をキャッチすると、そのままこちらに投げ返してきた!
『ほれ』
「うわ、やめ…」
「危ねっ!」
「ハッ!」
つねはそれらをいつの間にか出現していたトンファーで撃ち落としていく。
グガガガガガッ!!
そして最後の一つを粉々に砕いて落とすと、一気に距離を詰めて行った。
「宮崎君やめ『大人しく見てなさい』」
「どういう『黙って見てろ』」
俺とぎやまはいつの間にか背後に移動していた二人に押さえつけられてしまった。
その間にも闘いは激しさを増していく。ついにはトンファー同士の絶え間ない打ち合いの音のみが教室を占めていった。
『ほれ。』ガッ!
「うごっ!?」ガダンッ!
押し負けたのはつねのほうだった。鋭い一撃を鳩尾のあたりに受けて、つねの鍛えられた体が宙を舞う。いや弾け飛んでいった。
そのまま教室の壁に叩きつけられたつねだが、とっさに受け身を取ったのか両足で着地する。
そして攻撃をくらった鳩尾のあたりを撫でながら納得のいった顔で頷いた。
「やっぱ予想通りだったか。それにしても強いな、トンちゃん!」
『なに、我も驚いている。予想以上に馴染んでいるではないか。ふふ、久々に胸が躍るぞ』
「謙遜すんなよ、トンちゃん。明らか遊んでたくせに」
『ふふ、まぁそう言うな。まだまだ我の域にはほど遠いが、いままでの木偶よりかはだいぶマシだ』
「言ってくれるじゃん」
「ちょっと待ってよ!一体どういうこと?いきなり攻撃したりして何が…」
「ああ、阿部ちゃん。ちょっと頬をつねってみ。そうすれば分かると思うよ。トンちゃんたちもそれを教えるためにここに連れてきたんだろうし」
俺の言葉を遮ってつねがそう言ってきた。よく分からないが、とりあえず言われた通りに頬をつねってみた。
「特になんともないけど…?」
『馬鹿かお前は。その小僧が言っているのは痛みの有無だ。思いっきりつねってみろ。何だったら俺が切り裂いてやろうか?』
鬼丸はそう言って刀を抜こうとしたので、俺は慌てて強くつねってしまった。すると麻酔のあとみたいな鈍い痛みがあった。
「あれ、どういうこと?」
「阿部ちゃんも分かったでしょ?最初夢で感じたよりも感覚が鋭くなってる。多分昨日カリヤって人が俺達に流し込んできたものが関係してるんだと思うよ」
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