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三拾一

5月14日(月)0時20分


「ところで阿部ちゃんとぎやまは誰か狩った?」


3人で固まってプールの陰に移動している途中、ふとつねがそう聞いてきた。


「俺は一人倒したよ。斧使いの男子生徒。倒してすぐに阿部ちゃん見つけて、やられる前にやってやれな感じで行ったんだ。」


「そうだったんだ。じゃあ倒してないのは俺だけ?つねはさっきジミー倒してたし。」


「ジミー?」


つねは不思議そうに首を傾げている。もしかして…


「もしかして宮崎君気づいてなかったの?さっき宮崎君が倒した相手ジミーだよ?」


「マジで!?なんか屋根の上で鉢合わせしたからそのまま殴り飛ばしちゃった…。まぁ斬馬刀手に入ったしいいか。」


「そういえばさっきジミーの刀に何したの?なんか吸収したみたいに見えたけど。」


俺がそう言うとつねは右手を前に差し出して、短く声を出した。


「ん、《グレートソード 斬馬刀》!」


するとつねの右手にさっき見た巨大な刀が現れた。それをつねは一回軽く振ると「《戻れ》」と言って消した。


「ゲットしちゃった(笑)。ぎやまたちは倒した相手から武器を奪う呪文は知ってる?」


「俺知らないわ。どんなん?」


「俺も知らない。」


俺たちがそう言うとつねは思い出すように顎を摘んでいる。


「えっと、たしか《我其が願いを喰らう者 我が夢幻の糧となれ》だったかな。」


つねがそう言った瞬間、前に出したままだった右手から何か影のようなものが湧き出てすぐに引っ込んだ。


「これを相手の武器が消える前に唱えれば、それを自分の物にできるんよ。だから俺、今6種類の武器持ってるぜ!」


「パネェ!宮崎君マジパナイッス。俺もさっきの斧にやればよかった。」


「ん?あぁでもこれやると寿命縮まるよ?」


「「マジで!?」」


「まぁ冗談だけど。でもこれ消費は激しいかな。使い勝手はよくないかも。…それにしてもジミー殺しちゃうなんてなぁ。でも夢だからいいか。じゃあ阿部ちゃんのノルマ達成にいこうか。」


まだいろいろ質問したかったが、つねはそのまま歩いて行ってしまった。時間も無限じゃないし俺もそろそろ誰か倒さないとな…。


そういえばジミーの斬馬刀を手に入れるとき、つねはたった一言《喰らえ》としか言ってなかったような…?


5月14日(月)0時29分


俺はプールの陰から獲物が来るのを緊張しながら待っていた。ぎやまとつねは他の位置で獲物を追い詰めてくることになっている。


俺は何度も追われてきた相手に切りかかるイメージを繰り返す。


失敗したらぎやまやつねに迷惑がかかるだけでなく、誰かが返り討ちにあうかもしれない。それだけは避けたかった。


辺りにはまだ闘っている生徒が多く残っているようで、破壊音や怒声が響いてくる。


ここに潜んでいる間にも何人もの生徒が駆け抜けて行った。


だがこんなプールの陰に隠れた場所なんて闘い辛いだけだし、大概は立ち止まることなく走り抜けて行く。


ドゴンッ!ガガッ!ベゴン!


「うわああぁ!頼む止めてくれぇ!」


不意にそんな叫び声が聞こえてきた。破壊音と声は徐々にこちらに近づいて来ており、同時に聞き慣れた声も聞こえてきた。


「フハハハハ!待て待て待てぃ!斬馬刀の切れ味確かめさせろ!…うおりゃあ!!」


ズバンッ!!


「うあああぁああ!!?」


(テンションMAXだな…。ぎやまが止めてくれなかったら俺も…!)


そんな想像に背筋を冷やしている間にも破壊音はどんどん近づいてくる。


不意にプールの前にある、弓道場と剣道場の間にある道から男子生徒が飛び出してきた。


「ち…くしょう、…どうなって…るんだ!どうして…あんな化け物が…!」


そう喚きながら男子生徒は一心不乱に走っている。


最初彼はラグビー場の方に走って行きそうになったが、多節棍を構えたぎやまがいるのを見てこちらに向きを変えて走ってきた。


「ヒャッホウ!」

「うわあああぁ!!?」


ズガガガンッ!


俺の近くまで男子生徒が走ってきたところで、つねのトンファーがアスファルトの地面を抉った。


男子生徒はその一撃に呷られて俺の目の前まで転がってきた。相変わらずのつねの破壊力に俺まで軽くブルッときた。


「な、くそ!またかよ!」


男子生徒は俺を見て慌てて立ち上がろうとしたが、今度はぎやまの鎖に体を拘束される。


「阿部ちゃん今だ!」

「やっちゃえ!!」


俺は鬼丸を抜くと、まるで切腹の介錯のように刀を構えた。


「た、頼む止めて…」


一瞬罪悪感を覚えたが、所詮これは夢だし構わないかと刀を振り下ろした。


バシュッ!


リアルな感触と共に男子生徒の首は分断され、すぐに体が淡く光り出す。


「阿部ちゃん、あれやってみれば?それ小太刀みたいだしちょうどいいんじゃない?」


そう言われて見てみれば確かに男子生徒の腰には小振りの刀が差してある。


「どうする?」

『構わんだろう。二刀流の技もある。』

『オッケー。』


鬼丸にそう言われて俺は男子生徒に右手を向けた。


「えっと、たしか《我其が願いを喰らう者 我が夢幻の糧となれ》…、うおっ!?」


途端に右手に変な感覚が一瞬だけ現れ、そして何かが俺の中に吸収されていった。


「おめでとう阿部ちゃん。これで俺たち3人ともノルマ達成だね。」


「緊張したぁ。次からは場所決めて集まらない?また阿部ちゃんとか宮崎君と闘うとか勘弁!」


「まぁそれは現実で決めよう。とりあえずお疲れ様。」


「だね。」


「ありがとね。」


こうして俺たちの第一の闘いは幕を閉じたのだった。


5月14日(月)8時15分


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