ニ拾六
?月?日(?)?時??分
俺は立ち上がって軽く体の調子を確かめると、そいつの後を追った。
そいつは剣道場の扉を開けて出て行くところだった。俺が慌てて扉を通ると、いきなり視界が真っ白に染まった。
?月?日(?)?時??分
まばたきをすると目の前にはパソコンが大量に並んでいた。辺りを見渡すと、どうやらここは稲穂学園のPC室らしい。
『俺のことは鬼丸と呼べ。呼び名がないのは不便だからな。』
そいつ、いや鬼丸は教卓の上に胡座を組んで座っていた。片肘をついて眠そうに目をこすっている。
改めてその姿を観察してみると、本当に俺と瓜二つだ。
服装は紺の学ランを着くずし、前ははだけられている。
顔は鏡に映したように俺と同じだが、髪が俺より長く後ろで一つにまとめられている。
腰には黒塗りの鞘に収められた日本刀が差されていて、大きな存在感を放っている。
雰囲気は眠そうな表情を除けばだいぶ荒々しく感じる。目が合うとひんやりとした感覚が背を走り抜けていった。
まるで大型の熊や狼と向かい合っているようだが、正直さっきの俺はだいぶ軽率だったと思う。
『とりあえず気が変わった。面倒だがお前に説明してやる。』
鬼丸は気怠げに顎をかきながらそう言って俺をまっすぐ見た。
『俺は話を途中で遮られると苛つくからな、口は挟むなよ。昨日もそれでお前の両腕両脚ぶった切って喚くお前の頭に記憶をぶち込んでやったからな。また忘れられても面倒だ、大人しくしてろ。』
(だから記憶がなかったのか!そりゃそんなことされれば記憶も吹っ飛ぶよ…。ん?そういえば鬼丸って…)
『とりあえず基本的なところから説明するか。闘いに参加する以上知らなけりゃ面倒なことになるからな。』
そう言って鬼丸は闘いの大まかな歴史とこれまでにあった戦闘について説明を始めた。
まるで日本史の授業のように、かつての参加者達の様子が語られるのは聞いていてとても興味深かった。
『…と、まぁ俺と組んだ歴代の所有者達の歴史はこんなもんだ。残念ながら最後まで勝ち残ったやつは二人だけだ。他は比較的最後まで残って消えていったな。』
やっと一段落ついたのかそこで鬼丸は一息ついた。だいたい一時間くらい聞いていただろうか。
そういえば今現実でどれくらい時間が経っただろう?もう夢に来てから一時間半ほど経っているはずだ。
夢と現実では時間の流れるスピードが異なるらしいし、つねの話を聞く限りじゃまだ数分しか経っていないだろう。
だいたい夢の一時間で現実の5分くらいらしいから、今現実では7、8分経ったかどうか、かな?
『何か聞きたいことはあるか?簡単な質問になら答えてやる。』
「じゃあいくつか聞きたいんだけど…、その勝ち残った二人はどうなったんだ?」
『知らん。興味ないな。』
「……。」
せっかく質問ができるようになってもこれじゃ意味ないだろ…。
「それじゃその人たちは何を願ったの?」
少し質問を変えてみた。本当に願いが叶うかどうかは置いといて、俺の先輩にあたる人たちが何を願ったのか気になった。
『一人は85代目だったか。寺子屋に通っていたそいつは、飢饉によって全滅しかけた村の人々を救ってくれと願った。結果村人は飢饉を乗り越えたが、あいつの病気の母親は闘いの合間に死んでいた。そこから鬼神のごとく強くなっていったんだが、どうせなら死んだ母親を生き返らせればよかったものを。』
寺子屋って…。それに飢饉か。いったい何年前のことだよ。
『二人目は比較的最近、1407代目だな。願いは死んだ愛犬を生き返らせることだ。ちょうど闘いに巻き込まれる前日に共に成長してきた犬を事故で亡くし、悲しみに暮れていたところだったため、闘いに参戦するやいなや短期間で圧倒的な力を身に付けた。』
そんな理由で闘った人もいるのか。って1407代目!?
俺はその数字に驚きを禁じ得なかった。
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