二拾四
?月?日(?)?時??分
突然迫ってきたそいつに、俺はとっさに下がろうとした。
しかし一瞬で距離を詰められてしまい、次の瞬間には懐に入り込まれてしまった。
そいつはそのまま勢いを殺さずに俺の腹に数発拳を打ち込むと、軽く宙に浮き上がった(!)俺を竹刀を使わずに蹴り飛ばす。
「グフッ!」
またしても壁に叩きつけられた俺は、床に足の裏をつける間もなく竹刀の突きを喉元にくらった。
「がっ!」
まるで昆虫の標本のように壁に縫い付けられた俺に、そいつはつまらなそうに呟いた。
『こんなものか。』
そいつは竹刀を下ろすと俺に背を向けた。そしてそのまま立ち去ろうとする。
「ま、待てよ!」
俺は喉元を押さえながら立ち上がった。運良く喉は潰されてなかったようだ。
「いきなり何すんだ!死んだらどうすんだよ!てかまず名乗ったらどうなんだ!」
俺がそう怒鳴ると、そいつは振り返って見下したような目つきで竹刀を俺の背後に向ける。
『雑魚に名乗るような名は持っちゃいないな。知りたければそいつで俺に一太刀入れてみろ。ま、一生かかっても無理だろうがな。』
そう言われてカチンときた俺は反射的に答えていた。
「そこまで言われて引き下がれるか!一太刀と言わず、何太刀だって入れてやる!」
そう言ってから先ほど一瞬でやられたことを思い出した。しかしここで引き下がるなんてできない。
俺は言われた通りに竹刀を抜こうとするが、深々とめり込んでいるためなかなか抜けなかった。
やっとのことでひき抜いてみると、あれだけ深く刺さっていた割には竹刀に傷はなかった。
俺は久々の竹刀の感触に手を馴染ませるために数回素振りする。
(意外と鈍ってはいないな。)
さらに数回素振りを重ねてから俺はそいつに向き合った。
?月?日(?)?時??分
竹刀を手で弄びながらそいつは大きな欠伸をした。そして眠そうな表情で伸びをする。
『ん、とりあえず一分耐えてみろ。』
そう言ってまた凄まじい速さで迫ってきた。だが今度はどうにか目で追うことができた。
先ほど同様に懐に潜り込まれる前に竹刀を構えて突きを出す。
それをそいつは弾くこともなく全身を回転させて避けた。
そしてその回転の威力のまま竹刀を横なぎに振るってくる。俺はそれを竹刀で受けると返しに小手を打とうとした。
そいつはそれを素早くバックステップで避けると鋭い突きを放ってきた。
(はや…ッ!)
喉元に迫ってきた竹刀を今度はなんとか避けることができた。だが無理に首をそらしたため、バランスが少し崩れてしまった。
「うぁ!」
がら空きになった腹に鋭い蹴りが打ち込まれ、俺は息を限界まで吐き出された。
俺の視界に独特な構えをとったあいつが見える。
重心を深く落とし、上半身を限界まで捻り竹刀を腰の辺りに構えている。
(居合いか…!?)
それは昔道場の先輩がやっていた構えに似ていた。しかし先輩のより構えが深い。
『流水散華』
そう呟く声が聞こえた瞬間、姿が三人に分裂したように見えた。
そして気がつくと俺は床に仰向けに倒れていた。
(一体何が…?)
倒れたままなのでそいつを見上げるしかできないが、よく見ると握っているのは竹刀ではなく刀に変わっていた。
?月?日(?)?時??分




