二拾二
5月13日(日)13時25分
「つ、つね!それいつ出した?てか今それから声が聞こえた気が…」
俺はつねが右手に持っているトンファーを指差すとそう言った。
するとつねは頷くとトンファーを軽く振った。黒光りするトンファーは表面で光を反射している。
「あ~、これを見てその反応ってことは本当に覚えてないんだ。阿部ちゃん、これが俺の夢に出てきた俺の分身だよ。」
つねはそう言ってトンファーを左手にもうひとつ出現させる。
「阿部ちゃん。たしか阿部ちゃんは夢に日本刀が出てきたんだよね?だったらそれが阿部ちゃんの【神器】だね。」
『覚えてないと言うのが本当なら、最初から説明すると【神器】とは神々が創り出したものだ。それは…』
「ちょ、ちょっと待って!いきなりすぎて何が何だか…。トンファーが喋るのはスルーしたほうがいいの?」
俺が慌てて止めると、つねとトンファーは両方とも口をつぐんだ。いや、トンファーに口があるのかは知らないけど!
とりあえず順を追って説明してもらおう。今朝から不可解なことばかりで頭がパンクしそうだ。
5月13日(日)13時55分
「…ていう訳だ。まぁぶっちゃけこいつから聞いたまんまだけどね。」
『うむ、本来ならお前もあちらでお前の【神器】から教えられたはずだ。それを覚えてないと言うことは、あちらで何か不測の事態が起きたか単純にお前の頭の容量が足りなかったのだろう。』
トンファーの言葉に俺は疑問をぶつけてみた。
「容量って…ただ夢を見るだけでそんなに頭に負担がかかるものなの?」
『ただの夢ではない。我ら【神器】の数百年に及ぶ闘いの記憶と経験をお前たちの頭に流し込むのだ。お前も覚えがあるだろう、お前が【神器】に触れたときお前の記憶が【神器】に流れ出ていかなかったか?』
確かに夢で俺の17年間の記憶がいっきに思い出された。よく覚えてないが、ものすごく頭に負担がかかったのだけは記憶に残っている。
『単純に考えてあれの十数倍から数十倍の付加がかかったはずだ。近代の若者はそういった負担に弱いからな、脳が遮断したのだろう。』
「じゃあ何でつねは覚えてるんだ?つねだって近代の若者でしょ?」
俺がつねにそう言うと代わりにトンファーが答えた。
『こいつは比較的痛みや脳の負担に慣れている。馴れているとも言うな。』
「まぁ俺偏頭痛持ちだし、痛みには慣れてるかな。それに鈍感だし。」
『恐らく覚えてないだけで、記憶や経験はお前の中にあるはずだ。思い出せなくとも問題ない。』
「阿部ちゃん、もう一度あっちに行ってみれば?いくら頭にあるはずだっていっても呪文の一つや二つ覚えてないと。」
つねの言葉に俺は首を傾げた。呪文って何のことだよ。
『ふむ、確かに【夢入りの言霊】を知らないのは不便だな。』
俺はトンファーやつねがさっきから言っている呪文やらなにやらの言葉について聞いてみた。
「その言霊?ってのはどんなやつなの?」
『ふむ、まぁ一種の合い言葉だ。資格を持つ者ならばそれを唱えるだけで様々な現象を起こせる。』
「つまり魔法みたいなもの?」
俺が聞くと今度はつねが答えた。
「ん~、まぁちょっと違うかな。今言っている言霊ってのはパスワードみたいなもので。ほら、あの《我夢と現の狭間にて神を堕とす者~》ってやつ。あれは夢と現の狭間にある、何て言うかそんなとこと繋がるための呪文なんだ。」
『その言霊を唱えれば幻想空間へとお前の意識を持って行くことができる。』
「そうそう、それだ。それが【夢入りの言霊】で《我夢と現の狭間にて神を堕とす者~》っていう昨日教えた呪文。それを唱えれば夢と繋がれる。まぁ身分証明を見せるようなもんかな。」
『まずその呪文を唱えなければ始まらない。資格を持つ者がその呪文を唱えることで夢と現に同化する。それから呪文を唱えることでそれを実現する。』
「悪いね、阿部ちゃん。あんまり説明得意じゃないんだ。」
『うむ、私も基本的なものはこいつと同じなのでな。要点を絞れてなければこいつのせいだ。』
「そんなことないよ。とりあえずその【夢入りの言霊】ってやつを唱えてみるよ。」
そう言って俺は呪文を唱えようとしたが、ふと思いついてトンファーに言ってみた。
「つねが変なことしようとするだろうから見張っておいて。」
『ふむ、承知した。』
そして俺はつねの「そりゃないぜ相棒!」という言葉を無視して呪文を唱えた。
「《我夢と現の狭間にて神を堕とす者なり》」
瞬間、俺の意識は途切れた。
?月?日(?)?時??分




