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百九拾七

7月9日(月)23時59分


後一分で日付が替わる。


そして俺は闘いに強制参加させられる。


手術はまだ終わる気配はない。


先ほど毛布を届けてくれたナースさんの言うことには、零時、つまり今が峠なんだそうだ。


壁に掛けられた時計を確認する。


後10秒……5秒…3、2、1…




 7月9日(月)12時31分


突然バイクに乗って現れた男の弾丸は村正の刀身に当たり、甲高い音を立てて弾き飛ばした。


男は背後に合図を送る。


すると背後に重なるように隠れて見えなかった人物が現れた。


バイクの後部座席に乗っていたのは俺たちと同い年くらいの女性。


「任せた」


「オッケー」


男の一言に軽く返事をして、その女は舞霞達の方に近づいていく。


思わぬ展開に感情の渦は鎮まり、俺は刀を失って停止する村正から距離を取った。


「阿部、佑樹」


バイクから下りた男が俺の名前を読んできて若干驚く。


「女たちはあいつに任せろ。お前は俺と来い」


「えっと…」


「レオンハートだ」


「!」


レオンハートと言えばぎやまが言ってた、つねのことを(夢で)殺した親友!


レオンハートは動かない村正の片足を躊躇いなく撃ち抜いた。


そして悲鳴も上げず転がった村正を一瞥すらせずに、他の男たちにも同様にしていく。


男たちは全員村正がやられると同時に動かなくなっており、レオンハートの障害にすらならなかった。


一方女の方はフェンスに衝突したままだったワゴン車を調べている。


まだどうにか動くことが分かると、女はちいを後部座席に横たえた。


「阿部君」


ちいの体を固定する作業を終えると、その手伝いをしていた舞霞がこちらにやってきた。


「面倒事になる前に移動するって。あの人は宮崎君に頼まれて来たんだって」


「…分かった。見ず知らずの人を信用するのはあれだけど、つねの友達だって言うなら大丈夫かな。けど万が一のためにちいに付いてくれる?」


「分かった」


そう言って舞霞はワゴン車に乗り込んだ。


俺は軋んだ音を出しながらも発進していくワゴン車を見送ると、レオンハートの方を振り返った。


レオンハートは炎上するトラックと崩れた校舎の間からつねの体を引っ張り出したところだった。


切り傷や裂傷、打撲などに加え爆発によって焦げ付いてしまっているため、一目見ただけでは誰なのかすら分からない。


「…まだ息があるな」


「!?」


こんな状態でも生きているのか!


「支えておけ」


レオンハートはそう言ってバイクの後部座席につねをくくりつけた。


「え?」


「直接病院に連れて行く。今から呼んだんじゃ間に合わない」


間に合わないもなにも…どう見ても手遅れ、そもそもなんで生きてるのか不思議な状態だ。


「こいつの生命力を信じろ」


そう言ってレオンハートはバイクに跨る。


そして予備のヘルメットをこちらに向かって放ってきた。


どうやら俺が後部座席に座ってつねの体を抑えておくらしい。


3人乗りは犯罪ではなかろうかという考えはこの際省く。


つねの体はどこを押さえても致命傷になりそうだったが、落ちないようしっかりと支えた。


そして法定速度も赤信号もぶっちぎって、十数分後にはつねは手術室の中に消えていった。




俺は何故か落ち着いていた。


普通パニックになったり、焦って何も考えられなくなりそうなものだが、画面越しにこの状況を見ているようだった。


なんだろう。


今日この学校に来てから今に至るまで、いや、今現在にまったく現実味を感じられない。


まるであらかじめ決まった行動をとらされているかのような、手のひらで踊らされているような…


きっとつねがあんな状態になったショックのせいだろう。




つねは一命を取り留めたが、目を覚まさない可能性があるそうだ。


主要な臓器は深刻なダメージを負っているものの、ほとんどの傷は四肢にあり、出血の半分も古傷が開いたものだった。


しかし頭部を何度も強打し大量失血と心臓停止によって脳に酸素が…


そんな説明を何度もされた。


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