百九拾五
7月9日(月)12時28分
よく考えたら分かることだった。
全治2週間。それは1日や2日で治るようなものじゃない。
いかに見た感じ大丈夫そうでも、よくよく観察すれば分かったはずだ。
痙攣を無理やり押さえ込んで強張った筋肉。
動き回ったせいで血行よく見えてはいたが限界すれすれだった肉体。
飛びそうになる意識を引き留めるために無理やり上げていたテンション。
そもそも万全であったら関節を外すだなんて面倒なことをするまでもなく、力任せに蹴散らせばいいだけの話だった。
俺はちいのことで頭がいっぱいで、他のことを考える余裕がなかった。
何故舞霞に助力を頼んだのか。
女性が苦手で、用があっても極力話したがらないつねが、舞霞に頼っている時点で違和感を覚えるべきだった。
結果つねの限界だった体は四方八方から迫る脅威をかわすことができなかった。
十種の【神器】がつねの体を悉くめちゃくちゃにした。
【斧】、つねの左肩にめり込む。メリメリと軋む嫌な音がした。
【ナイフ】、つねの右アキレス腱に深々と突き刺さる。バツンと腱が切断される音がした。
【槍】、つねの脇腹を貫通していく。肉を貫くズブッという鈍い音がした。
【短剣】、つねの左の二の腕の辺りを切り裂く。厚紙を断ったようなザクッという音がした。
【ロングソード】、つねの左頬を深く深く削っていく。鋭くズシュと尾を引く音がした。
【鎌】、つねの右肩に半身近く突き刺さっている。サクッとあっさりとした音がした。
【棍棒】、つねの側頭部を強打する。ゴンッという重い音がした。
【メイス】、つねの後頭部を砕かんばかりの威力で叩く。バキュッという危ない音がした。
【青龍刀】、つねの左脹ら脛を縦に貫く。ズザッという布と肉を斬る音がした。
【大剣】、つねの右目を縦に…
「宮崎君!!」
ちいを介抱していた舞霞が悲鳴を上げたが、つねの体から発せられた音の塊は消せなかった。
体の至る所が不自然に曲がった【神器】の持ち主達は、変わらぬ無表情で、
「「「「「「「「「「《我夢と現の狭間にて神を堕とす者なり》」」」」」」」」」」
十の口から異口同音を通り越して一つの声が出される。
一瞬の停滞。
つねを含めた11の肉体から意識が別な場所に消える。
そしてその場の全ての動きが止まった、そのタイミングで、
キキィイィィ!!
正門から大型トラックが猛スピードで侵入してきた。
トラックは動かないつねに向かって…
「つね!!」
我に返った俺は動かないつねに向かって駆け出そうとして「阿部君!!」飛び出してきた舞霞に突き飛ばされた。
ヒュン!
直前まで俺の頭部があった辺りを通過していく矢。
その矢はフロントガラスのない大型トラックの運転手から…
つねを【神器】で押さえつけていた10人は全く同じタイミングで四散する。
残された、満身創痍とも言えないほどにボロボロになったつねは、
迫ってきたトラックを避けることもできずに、
「あ…」
見える方の左目でこちらを見た、気がした。指先が動き…
「 」
激しい衝突音。
大型トラックはつねを大きく弾き飛ばし、つねの体は弧を描いて校舎の壁に叩きつけられた。
そして間髪入れずにトラックがつねを校舎に挟むように…
つねが潰される音はトラックが衝突する音にかき消されて聞こえなかった。
トラックを運転していたやつは直前に離脱して離れた位置に転がっている。
突如トラックの衝突面から破裂するような音がした。
トラックは炎上。
激しい爆発を起こした。
俺たちはそれを呆然と眺めていることしかできなかった。
ナンデ?
ツネハドウシテ…
精神が崩壊しかけた俺の耳には、通話状態の携帯から発せられる声は届かなかった。
『さて、これで邪魔はいなくなった。阿部君、果たして君は¨13人¨から逃げ切ることができるかな?文字通り命がけの鬼ごっこを楽しんでよ』