百九拾四
7月9日(月)12時23分
『やあ、阿部君。どう?彼女さんは無事見つかったかな?』
「何のようだよ」
電話の主は予想通り断罪だった。
『結構落ち着いてるね。その様子だと彼女さんは無事取り返せたみたいだね』
「…何の用だって聞いてんだよ」
つねのおかげでちいは無事戻ってきたが、一歩間違えたら…
そう思うと怒りが沸いてくるが、こんな誘拐を実行するような狂ったやつのことだ、下手な対応をすれば冗談では済まないだろう。
家に火を放つくらい一切の躊躇いもなく実行するであろうイかれ具合だ。
「阿部ちゃん、貸して」
「え?」
いつの間にか近づいていたつねに携帯を奪われていた。
「どうも~、いつもニコニコお客様第一、真心込めた商品を扱っております悪徳商法の山田で~す(ハート)」
いきなり何言ってんだ!?
「かっこはーと」って口で言うなよ!!
悪徳商法の山田って誰だよ!じゃなくて…
「お、おいつね!」
意味不明な言葉はともかく、何故携帯を…
「うん、うん。そうそう、おれおれ(笑)これ以上なめたことしてっと潰すよ、的なお話♪阿部ちゃんは優しくてこっちから打って出るってことはしないみたいだけど…」
「おれはそんなに甘くねぇぞ」
最後の一言だけ口調が打って変わってドスの利いたものに変わった。
どうやらつねは断罪にこちらへの干渉を止めさせようとしているらしい。
「ん?こいつら全員倒すだけで諦めてくれんの?
マジでかよラッキー☆≡
それじゃまたね~♪」
つねはそう言って電話を返してきた。さすがに他人の電話を切るのはマナー違反だと思ったらしい。
いや、奪った時点でマナーも何もないんだけど。
とはいえ内容からすると、
「それじゃ阿部ちゃん、こいつら全員再起不能に、しよっか♪」
断罪の仲間10人を倒せばこっちのことを諦める?
胡散臭いな。あいつがそんな約束を守るはずが…
『阿部君。』
まだ通話中の携帯から声が聞こえた。
「なんだよ」
『いやあ面白いね、彼。もしかして宮崎君かな?村正のとき君と一緒にいた二人のうちの片方』
「…さあね」
敵に仲間のことを教えてやる気はない。
『彼はてっきりリタイアしたものだと思っていたよ。村正にあれだけ重傷を負わされていながら、まさか生き残っていたとはね』
確かにつねは本当に危なかった。生死の間をさまよっていたくらいだ。
『まあ彼のことは君に興味を持つより前から知っていたんだけどね』
確かつねは前から村正のことを追っていたんだったか?じゃあ知っていても不思議じゃない。
『彼は要注意人物だったからね、仲間にするのも危う過ぎる。だから早めにリタイアさせるつもりだった』
その時背後から肩をたたかれた。
「ふぃ~(・д・)
終わったぜぃ( ̄∀ ̄)」
「はやっ!!」
つねは俺が断罪と話している間に10人全員を再び地面に転がしていた。
容赦なく肩や手首、様々な部位があらぬ方向を向いてる。
おそらく抵抗できないように関節を外したのだろう。
てかつねは体大丈夫なのか?
全治2週間と言われていた割に万全状態と全く変わりようがない気がする。
まあつねだしそれくらいのことあり得るか。
『どうやらそっちは終わったみたいだね』
「ああ。でもどうせ約束は守るつもりはないんだろう?」
俺がそう言うと、心底心外だというような断罪の声が帰ってきた。
『約束は守るよ。彼ら¨12人全員を¨倒せたらね』
「え?」
12人?でもあいつの仲間は10人…
ザシュッ
「うあ?」
つねの背中に矢が刺さっていた。
『ああ、ごめんごめん。10人じゃなくて12人だったよ。でもまあ君たちなら余裕だろう?だけど…』
断罪はとぼけた口調で言った。
『村正の¨呪い¨って便利でさ。うまく使えば死なない限り動き続ける人形を作り出すことができる』
俺が口を開くと同時につねの体にいくつもの【神器】がめり込み、破壊していった。