百九拾三
7月9日(月)12時20分
「おらおらおらおらあ!!
どかねえと弾くぞごらあ(・д・)!!」
両手の握力で張り付いているだけなのに、何故かつねは自分が運転しているかのようにそう怒鳴っている。
「ユニバース!!」
ヤバい、何かつねのテンションがとにかくヤバい。
そして俺が何か言う前に目の前までワゴン車が迫ってきて…
「ちょわ!?」
とっさに舞霞を弾き飛ばし安全圏まで遠ざけると、俺も全力で横に転がる。
猛スピードで俺たちが立っていた場所を通過していくワゴン車。
そしてそのままフェンスに激突し、タイヤを空回りさせ停止する。
つねは慣性に従ってフェンスを飛び越え、通りの向かい側の民家に頭から突っ込んでいく。
ひゅーんドガシャンッ!
「……。」
何とも言い表せない空気だ。言葉にできない。
「……。」
ガラガラ…
つねが瓦礫と化した民家の外壁から起き上がる。
無言かつ無表情でフェンスを乗り越えて戻ってきた。
一度だけ片手を顔のまえに翳し、「何やってんだ…おれ」みたいな感じでただずむ。
心なしか哀愁を背負っているような気がする。
俺が何と言ったらよいか迷っていると、
ガラッ
つねはフェンスにめり込んだワゴン車のサイドドアをスライドさせて中に入り込む。
そして中から人を放り出した。
一人は高校生くらいの青年。
たぶん断罪の仲間の一人。
後ろの席にいたってことは、最後の一人は運転席だろう。
続いてつねが抱えて出てきたのは…
「ちい!」
俺は力なく抱えられているちいに走り寄った。
「大丈夫、薬品で眠らされてるだけだよ。ドラマでよくあるクロロホルムかな?」
つねが何か言ってるようだが、俺はぐったりしたちいのことしか考えられない。
「ちい!ちい!」
ちいはかすかにまぶたを震えさせるだけで起きない。
「阿部君、とりあえず移動しようよ、宮崎君も。こんな騒ぎになったらすぐ警察がくるよ」
冷静な舞霞の言葉でやっと気がついた。
確かに離れた位置にいる生徒の何人かは携帯に向かって話しかけている。
「そう…だね。」
俺はちいを抱えると(俗に言うお姫様だっこ)、裏門の方に向かおうとして、
「!」
まるでゾンビのようにバラバラの方向からゆっくりと近づいてくる姿を発見した。
そいつらは先ほど俺と舞霞が気絶させておいた断罪の仲間達。
しばらく目を覚まさないよう結構力を込めていれたのに…
背後にはワゴン車からつねに引きずり出されたやつと、運転席から出てきたやつ。
…♪…♪♪…♪…
その時携帯に着信が入った。
それどころじゃないと無視していたが、着信が止む気配はない。
男達は俺たちを囲むように10メートルほど離れた位置で直立している。
もしかして電話に出るのを待ってるのだろうか…?
鳴り止む気配のない携帯を取り出すと、通話ボタンを押した。
「もしもし」