百九拾二
7月9日(月)12時07分
他の生徒に紛れてしまってちいは見つからない。
だが俺は学校の敷地に侵入していた断罪の仲間を2人発見し撃破した。
そして敷地近くに停めてあった、妹を弾こうとしたという白いワゴン車を見つけた。
ワゴン車は俺が近づくと途端に急発進し、走り去ってしまった。
さすがに走りで車に追いつくのは厳しいので、深追いせず引き続きちいを捜す。
「阿部君!」
「え?」
途中いきなり話しかけられて戸惑った。
一応ここにも知り合いはいるけど、この声は…
「えっと…なんで舞霞さんがここにいるの?」
舞霞はこの学校の制服を着て、(おそらく伊達の)メガネをかけて変装していた。
「昨日宮崎君にこの制服とメガネを渡されて、「明日○○高校に行ってくれない?もしかしたら阿部ちゃんがピンチかも」って言われて」
つねが?なんで?
あえてつねが制服(女性物、しかもサイズは合ってるっぽい)を持っていたことにつっこみはない。
あいつならあり得る。
「理由を聞いたんだけど、手紙がどうとか言うだけで詳しくは聞いてないんだ」
「!」
手紙と聞いてピンときた。
昨日病院で受け取った手紙は破いて近くの屑籠に捨ててしまった。
俺の挙動でつねが懸念を抱いていて、病室を出たあと追ってきていたとしたら?
ちいに電話をかける場面と断罪の仲間に渡された手紙から、今日俺がここに来ることくらい予想がつくんじゃないか?
なんの相談もしなかった俺の心情を考慮して、まだ学校などに縛られていない舞霞に頼んだのだろう。
「えっと…それで今はどういう状況なのかな。宮崎君からはほとんど説明を受けないまま来たんだけど…。一応怪しい人物、っていうか【神器】を所有している人物は積極的に倒してって言われてたから3人くらい気絶させてきたけど」
舞霞さんグッジョブ!
最初の3人、後の2人、舞霞の3人で残るは2人だ。
ワゴン車を運転していたやつと、もしかしたらそれ以外に一人。
俺は移動しながら簡単に状況を説明する。
「そうだったんだ。じゃあ捜すのを手伝えばいいんだね!宮崎君も後から合流するらしいし、すぐ見つかるといいね」
あいつ…。無理しやがって。
もうだいぶ校舎から出てくる生徒の数も少なくなってきた。
遠目に確認してみるがちいは見当たらない。
携帯に着信があった。
急いで確認するとちいではなくつねからだった。
「もしもし」
『あ…ちゃん?』
電話越しにつねの声にエンジン音、それと強風によるノイズが混じっていて聞こえずらい。
「どうしたの?」
『き…島さん…は合流…きた?』
「ああ、横にいる」
『だいたいの…とは察して…れたとは思…けど、と…あえず説明はあとで』
時々クラクションの音も聴こえてくる。もしかして何かに乗ってるのか?
『たぶ…そこ………さんはいないと……。今ワゴン車を』
ここにちいがいない?
ワゴン車?
俺の脳裏に嫌な予感が浮かんでくる。
『追って…んだけど…今また…校の方に…(ブツッ)』
電話が切れた。
聞き取れたことから推測するなら…
「ちいは白いワゴンに乗っていて、つねに追い回されてここに戻ってくるってことか?」
「え?」
舞霞が疑問符を浮かべるが、俺は門の方を振り返った。
もしかして、さっき急発進していったワゴン車にはすでにちいが攫われていたのか?
だとしたら俺はみすみす…
門の方からクラクションの音とタイヤがスリップするような音がしてきた。
まだ残っていた数人の生徒が悲鳴を上げてワゴン車を避ける。
ワゴン車は蛇行しながらも俺たちのいる場所へと猛スピードで向かってくる。
「ちょっ!」
俺は迫るワゴン車の上に目を奪われた。
「ヒイィィィィハァアァァァァア!!」
ワゴン車の上には最高の笑顔をしたつねが笑いながらしがみついていた。