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百八拾六

7月3日(火)0時05分


『小僧、いつまでも馬鹿みたいに惚けてんじゃねえよ』


意識が戻ってなお言葉が見つからないで黙っている俺に対して鬼丸はどこか呆れたように声をかけてきた。


『今のは《潤月》という、¨満月を創り出す¨途方もない技だ。あいつは月の状態、満ち欠けで実力が変化するからな。本領はここからだ』


満月を創り出す?


いったい何を言ってるんだと言いたくなるが、ほんの十数秒前までの光景を思い出すと何も言えない。


『そういえば、満月のあいつは自身でも力を抑えることができないから、準備が整うまで少し離れていろだとさ』


鬼丸がそう言い終えると同時に月の光を浴びていた三日月の全身が月明かりの中でさらに一際淡く発光し始めた。


『《月下の舞》だ。近くにいるとさっきみたく惚けて使いもんにならなくなるぞ。早く下がれ』


「あ、ああ」


返事をしたものの、ゆっくりと始まった先ほどとは異なる三日月の舞に、後ろ髪を引かれたように体が動いてくれない。


まるで月光が三日月に吸い込まれているようだ。どんどんその存在感が増していく。


くい…くい…


そんな俺のシャツの袖を引いたのは眠たげな表情をしたつねだった。


つねは横でぼーっとしているぎやまの足の甲を杖の先端で踏みつけ、悲鳴を上げたぎやまに当て身を喰らわせ、引きずって遠ざかっていく。


どうやらつねには三日月の魅了する力はあまり効果がないようだ。


俺も後をついて行く。


そういえば先ほどまで若干うるさかった虫の鳴き声が聞こえない。


すでに結構な広範囲が三日月のテリトリーに巻き込まれいるらしい。


(てか昆虫も魅了されんのかよ)


にわかには信じらんないが。


背後で一際月光が強まった。


同時に何やら体を透過していくような感覚が広がっていく。


『《月蓮の舞》。ま、当然か。邪魔が入ったら事だからな』


「げつれんの舞?」


『《月蓮の舞》だ。月の加護によって不可視の結界を創り出す技でな。理屈は知らんが、内側からは自由に出ることができるが、外側からは結界内の様子を窺うことも、入ることもできない仕掛けになってる』


結界て…


なんか一気にファンタジーと言うか、アニメや漫画みたいな話になったな。


まあこの状況、神を堕とす者とかいうゲームも改めて現実的じゃないけど。


サッカー場から出て陸上部の部室の前にあるベンチにまできた。


三日月までの距離は目測で百メートル。


ここまで離れれば大丈夫だろう。と言ってもグラウンドで舞う三日月の存在感はここからでもはっきりと感じられるが。


『《潤月の舞》《月下の舞》《月蓮の舞》そして《月光の舞》か。あいつも久々に本気を出したか』



《潤月》、《月下》、《月蓮》、《月光》。


鬼丸の説明では、《潤月》が月を満月の状態にするための舞い。


《月下》が月の光を吸収して力に変えるための舞い。


《月蓮》が¨場¨を自分の領域で覆うことで結界にするための舞い。


そして最後の《月光》が…


『《月光の舞》。月の光によってありとあらゆるものを浄化する。お前たちの呪いもこいつで解けるはずだ』


三日月を中心に薄い膜のような半透明な光の波が広がってきた。


オーロラのようなその波動は俺たちの体を透過すると同時に淡い燐光と共に燃え上がる。


熱はないのに優しく抱擁されるような、暖かい感覚が肌を撫でる。


まるで体から老廃物が取り除かれたようだ。身も心も洗い流されていく。


光の第二波がきた。


今まで体を苛んでいたものが一気にもっていかれる。


第三波。


第四波。


次々と体が軽くなっていく。楽になっていく。


見るとぎやまとつねも先ほどより顔色がよくなってきたようだ。


体に力が満ち溢れてくる。


そして一際大きな波が俺たちを呑み込み…



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