百八拾一
6月26日(火)?時??分
俺の押し殺した声に、村正の本来の持ち主はきょとんとしたようにまばたきをした。
「何だと思ってんだって言われても……所詮他人だろ?それに別に誰が傷付こうが、君に直接的な関係はないだろうし…。あ、もしかして彼、君の知り合いだった?だとしたら謝っておくよ。ごめん。適当なやつを選んだだけだし、まさか自殺するなんて思ってもみなかったから」
まるで悪気を感じてない…。
こいつは、本気で他人が傷付こうがどうでもいいんだ…
「けど警察に捕まったくらいで自殺するなんて浅はかだよね。自殺なんてただの逃げ、現実逃避みたいなものなのにさ。メンタルが弱過ぎるよ。あ、だからこのゲームでもリタイアしちゃったのかな?まあどうでもいいんだけど。それより他に…何か質問とかない?できる限り答えるからさ。友達になろうよ。君ならきっと仲良くなれる。僕ほどではないにしろ、君だって相当強いはずだしね!」
突然ダムが決壊したように話し始めた。
俺はまだ、というか絶対に仲間になるつもりはないのに。
表情や口調で俺が怒っていることが分かってないのだろうか?
こいつは人のことなど、他人のことなど、本当に見ていない。
「知ってた?もうゲームをリタイアしているやつでももう一度【神器】を与えてやればまた「黙れよ」…」
俺はそいつの無意味な言葉の羅列を遮った。
「俺はお前の仲間になるつもりはないし、お前みたいに他人を虫けらみたく扱うやつになんか死んでも協力したくない」
「……。」
俺の強い口調に驚くいたのか、そいつは何度もまばたきをしてようやく口を閉じた。
「無関係なやつを巻き込んで何が楽しいんだよ。お前のくだらない遊びのせいで何人も怪我して、俺の知り合いもまだ入院してんだよ。
他人なら痛めつけていいのか?他人なら何したっていいのか?こっちでどれだけ強いか知らないけどふざけるな!そんな弱いものいじめみたいなことをして何になるんだよ!そんなの…」
「…それは僕以外の馬鹿なやつらのことだよ」
先ほどまでの態度とは一変して、暗い瞳でこちらを睨むように遮ってきた。
「力があるから何をしても許される?そんなわけないじゃん。他人だったら何をしてもいい?それこそそんなわけない。これはさ、必要なことなんだよ」
いきなりスイッチが入ったように雰囲気が変わった。
何を言ってるんだ?
さっきからこいつが言ってることは理解できない。滅茶苦茶だ。
「僕はこの間違った世界を正そうと努力してるにすぎないんだよ。どうせいずれ正されるんだから何をやったって構わないだろう?全部僕がなかったことにしてあげるよ」
「…何を、言ってんだよ」
どんどん支離滅裂になっていく。こいつには対話しようって意思が感じられない。
まるで言葉は通じても言語が違う相手と話してるみたいだ。
「あ~あ、ちょっとがっかりだな~。見た感じもっとましな人かと思ってたのに、あいつらと同じか。所詮君も稲穂学園の生徒なんだね」
「?」
「阿部君はさ、僕のこと学校内で見かけたことある?」
「…いや、ないと思うけど」
けどあんな大人数の中では知り合いを見つけるのだけで一苦労だ。
状態や洒落でなく、稲穂学生の中では入学してから一度も顔を合わせたり、すれ違うこともなく卒業する生徒がいるだろう。
「僕はさ、M組なんだよ」
「!?」